損しても「味の素」は小分け袋を買う! フィリピン文化に隠された“小口販売の闇”

フィリピンのいたるところで売られる「味の素」。サイズはいろいろ

フィリピン・セブのマーケットを歩くと、小分けに袋詰めされた「味の素」をよく目にする。この商品は、大袋に詰め込まれた同じものよりも割高だ。フィリピン人の多くもその事実に気づいている。だがスモールサイズを買い続ける。そこにはサリサリストア(品揃え豊富な日用品の小売店)や「シェアの精神」、「その日暮らしの文化」という長年染み付いてきた伝統が隠されている。

カルボンマーケットで味の素を売るチェリック・ガレットさんの小さな店では、5つのサイズで味の素を売っている。一番小さい順から9グラム、50グラム、100グラム、250グラム、1キログラム。9グラムのものが2ペソ(約5円)で、1グラム当たりの値段に換算すると約0.22ペソ(約0.5円)で最も割高となる。それに対し1キログラムのものは145ペソ(約350円)で、グラム当たり0.145ペソ(約0.35円)だ。9グラムの商品は、1キログラムのものより約4割も割高となる。

にもかかわらず、「9グラムのものが毎日5、6個売れていくのに対し100グラムのものは週に1個、1キログラムのものは滅多に売れない。サイズが大きいほうが得という事実を客は知っているのだけれど、貧しいから、総額が高くなる大袋は買わない」とチェリックさんは説明する。

毎日を生き延びていくことに精一杯の人々にとっては、1キログラムの味の素を買うことは極めて困難だ。たとえばマーケットで八百屋を営むフィリピン人(5人家族)の稼ぎは1日400ペソ(約980円)。1キログラムの味の素(145ペソ)を買うとなれば、1日の収入の約4割をつぎ込むことになってしまう。

味の素を売るサリサリストア。フィリピン・セブのカルボンマーケットで

味の素を売るサリサリストア。フィリピン・セブのカルボンマーケットで

しかし、小口販売が損だとわかっていてもやめられない。いやむしろ、やめない理由がフィリピン人の生活習慣に潜んでいる。

古くからフィリピンに根付く「サリサリストア」という店がその原因の一つとなっている。サリサリストアは量り売り・小袋売りで日常品を販売する。商品は小売店から仕入れてきたものにさらに利益を上乗せしているので、値段は割高だ。しかし、セブの貧しい家庭は“割高でも安価な商品”が揃っているサリサリストアに頼る。庶民は今も足繁くサリサリストアに足を運んでいる。

フィリピンにはまた、ものを分け合う「シェア文化」がある。セブ市のホテル従業員、カブニラス・フェリックスさんは「食べ物がなくなった時に、よく他の家にもらう。特にコメや薪はひんぱんに借りる」と言う。フィリピンでは必要なものがなくなったら隣家に分けてもらうという、地域コミュニティの深いつながりがある。しかし、これは「どうせもらえるならすぐに使い切ってしまってもいい」という考えに陥りやすいといえなくもない。

加えて「その日暮らしの文化」もある。フェリックスさんは「2ペソ(約5円)の小さい砂糖をサリサリストアで買う」、また同じホテルの他の従業員も「30~50グラムの小さい塩を買う」と言う。味の素だけでなく、砂糖や塩といった調味料もフィリピンでは小分けで売られている。フィリピン人の多くがストックを持たないのは、味の素に限ったことではないのだ。フェリックスさんは「温暖で年中作物が収穫できる気候が、フィリピン人の貯蓄しない文化を形成したのでは」と推測する。

フィリピン人が自らの習慣を変えない限り、“小口販売の闇”から抜け出せないのかも知れない。