「正直全然儲からないけれど、夫と一緒に日本語を教えるのは楽しいですよ」
日本語を流暢に話すミャンマー人エィミャタンダさん(38)は2015年8月、日本人の夫と一緒にミャンマー・ヤンゴン市サンチャン地区に日本語学校「Utsubo」を開校した。ミャンマーの若者に夫婦で日本語を教える。現在の生徒数は10~20代の9人。「私も、夫も、教育に携わった経験があり、人に教えることが好き。だから日本語学校を開いた」
平日は火~金曜の週4日、1日2時間の授業を受けられるコースで月謝は4万8000チャット(約4800円)。土日は1日2時間のコースで月謝は2万4000チャット(約2400円)だ。
「生徒の日本語レベルはだいぶ違うから、本当はひとりひとりのレベルに合った指導をしたい。けれども、生徒数が少なく収入も多くないため、それはできない。他の日本語教師を雇うにもお金がかかってしまうしね」とエィミャさんは仕方なさそうに話す。
日本語学校の収入は1カ月数十万チャット(約数万円)しかないので、エィミャさん夫婦の生活は厳しい。そのためエィミャさんは2015年12月から、平日はヤンゴン市内のミャンマー元日本留学生協会(MAJA)でアシスタントとして働く。月給は80万チャット(約8万円)だ。
MAJAの仕事がない土日はUtsuboで夫と一緒に日本語を教える。また、1時間1万チャット(約1000円)で、ヤンゴン市内のホテルやレストランの従業員に日本語を教えることもあるという。
ミャンマーでは日本語を学ぶ学生が多い。ヤンゴン外国語大学では英語に次いで、中国語と同じくらい日本語が人気だ。日本に留学した学生は帰国後、日系企業で働いたり、日本語学校の教師になったりするケースが少なくない。
エィミャさんは高校を卒業後しばらく、家庭教師として働いた。「高校を出てすぐには大学には行かなかった。家庭教師をしながら、何かを勉強したいなと考えるようになり、人気のある日本語を選択した」
20代半ばのときヤンゴン外大に入学し、日本語を学び始めた。入ったのは、社会人向けのディプロマコース。授業は朝7~9時の2時間。大学の授業が終わると、ヤンゴン市内の日本語学校「MOMIJI」に行って勉強した。MOMIJIを選んだ理由についてエィミャさんは「日本人教師が日本語を教えているから、正しい発音で日本語を学べると思った」と言う。
ヤンゴン外大とMOMIJIで日本語を学んでいるときに、ヤンゴンの他の日本語学校で教師をしていた夫と出会った。ヤンゴン外大を卒業した後は大阪大学に4年間留学。在学中に、国際交流基金から派遣され、マレーシアのマラヤ大学で日本語教師として当時働いていた彼と結婚。大阪大学を卒業した後は夫婦でヤンゴンに移り住んだ。
ヤンゴン市内には200以上の日本語学校がある。競争が激しいゆえに生徒を集めるのはとても大変だ。ただUtsuboの強みは授業のやり方にあるという。
「例えば、夫が『教える』といった動詞を言い、生徒全員が『教えてください』と言う。これを何度も繰り返し、そのあと私がビルマ語で文法を説明する。正しい発音で日本語を学べ、また文法を正しく理解できる」(エィミャさん)
Utsuboという名前の由来は2つある。1つは、夫の故郷が大阪府の靱本町ということ。もう1つは、発音がビルマ語の貯金箱の意味に似ているということ。
エィミャさんのお腹の中には8月に出産予定の赤ちゃんがいる。その少し膨れたお腹を幸せそうにさすりながら語る。「まだ始めてはいないが、この夏休み(4~5月)はレベル別にコースを設けたいと考えている。私たち夫婦にしかできない教え方をして、もっと生徒を増やしていきたい」