「マイクロファイナンス(担保なしで少額の融資を受けること)のおかげで、母と過ごす時間をとりながら、仕事をして家計を支えられるようになった」
ミャンマー・ヤンゴン市のラインターヤー地区に住むミェンミェンモウさん(30)はこう語る。彼女は、目の悪い母親(61)の面倒を見るために、日雇いベースのナースの仕事を辞め、母が経営するアパレルショップを継ぐことにした。店は、2人が暮らす家の近くにある。ロンジー(腰に巻く布)やエンジー(ブラウス)などのミャンマーの伝統的な服から、Tシャツやジーパンなどの西洋的な服まで揃えている。
アパレルショップの収入は以前、月に5万~10万チャット(5000~1万円)だった。ミャンマーの最低賃金は1日3600チャット(月に約10万チャット=1万円)なので、これだけでは家計は回らない。困った彼女は、友人から聞いたマイクロファイナンスの利用を始めた。
融資するのは地元の中堅機関ソシオライト。最初の融資額は7万5000チャット(7500円)だ。その半年後には月の収入は10万~20万チャット(1万~2万円)へ倍増した。
「マイクロファイナンスのおかげで暮らしはだいぶ楽になった。見て、エアコンも買えたのよ」と喜々として語るミェンミェンモウさん。
現在は妹と2人で、どちらが交代で店にいて、どちらかが常に母と一緒に過ごすことにしているという。「日本では年老いた両親の世話をしない子どもがいるの?思いやりがないのね。親にさみしい思いをさせるなんて悲しいわ。ミャンマーでは親をとても尊敬する。老人を大切にするのは当たり前」とミェンミェンモウさんは言う。
総務省「第6回世界青年意識調査報告書」によると、日本は「どんなことをしてでも親を養う」と答えたのはたったの25%にとどまった。ミャンマーのデータはないが、同じ仏教国で隣国のタイは77%に上るなど、その差は歴然としている。
子どもが貧しいゆえに、親を助けることのできない家庭もある。ミェンミェンモウさんの近所に住むトゥミェテゥさん(57)は「自分の薬代は、マイクロファイナンスで借りたお金で始めた事業で稼ぐ。娘に迷惑はかけない」と言う。彼女はイスラム教徒だ。
トゥミェテゥさんは胃が悪く、1日5錠の薬を飲まなければならない。かつて営んでいた果物売りの仕事の稼ぎは1日800チャット(80円)のみ。ミャンマーでよく食べられるモヒンガー(麺料理)の値段がヤンゴンのダウンタウンだと約400チャット(40円)することと比べても、果物売りの稼ぎではとうてい、薬代を賄うことはできないことがわかる。そこで、マイクロファイナンスを利用して洋服の露天商を始めた。
「今はちゃんと薬も買えるし、寄付をするお金もある」とトゥミェテゥさん。イスラム教徒の彼女にとって寄付(ザカート)ができることは誇らしいことのようだ。
トゥミェテゥさんは夫とはすでに死別し、一人暮らしだ。釣り船の修理屋で日雇い労働する娘たちがいるが、娘一家の家計は苦しい。貧しい娘たちの負担にならないようにトゥミェテゥさんはビジネスを始め、自立したわけだ。ただ娘たちは、親を助けられなくても、母トゥミェテゥさんを思う気持ちはある。貧しい中でも毎日、母に昼の弁当を届けているという。
ミェンミェンモウさんやトゥミェテゥさんが利用するマイクロファイナンス機関のソシオライトは2011年に設立された。融資対象は貧しい女性だ。現在の利用者は1万7368人。貧困層に提供する小口融資の期限内返済率99.96%と驚異の高さを誇る。