その様子は隣国タイの「ゴーゴーバー」を彷彿させる。ミャンマー人らしからぬ大胆に肌を露出したドレスにハイヒールをまとった女性モデルの数々。ライトアップされたステージを練り歩く彼女たちには花束がかけられ、男性客は歓声をあげる。ミャンマーのナイトライフで定番の「ファッションショー」だ(連載①)。
「ショー」という名の品評会
ミャンマーでは売春・買春は違法。風俗店は本来ないはずだ。摘発されれば男女ともに禁固1~3年、または多額の罰金をとられる。ところが実際はナイトクラブやディスコなどが男女間の売春交渉の場となり、店が売買春を斡旋している。
その象徴といえるのが冒頭のファッションショー。ショーに出演する女性たち(レディーボーイもいる)は「モデル」と呼ばれる。モデルといえば聞こえは良いが、実はプロのセックスワーカー(売春婦)だ。彼女たちは店に雇われていて、ファッッションショーは今晩の売春客を得るためのいわば「客寄せ」、客からすれば「女たちの品評会」だ。明らかに未成年な幼いモデルも交じっている。
おもしろいのは売春交渉のシステムだ。客は1つ5000チャット(約500円)の花輪を店から買ってモデルにかけることで、その女性と一夜をともにする交渉権を獲得する。人気のモデルとなると複数の花輪がかかることもざら。対照的に花輪ゼロのモデルもいる。客同士でモデルを巡って花輪の数で競争をさせ、売春金額をつりあげていく仕組みだ。
「ファッションショーのモデルの一晩の相場は8万~10万チャット(8000~1万円)くらい。だけど平気で1~3割は上乗せする。彼女たちは自分の価値を知っていて、きれいなモデルには外国人客は平気でお金を払うから」。ヤンゴンの有名ナイトクラブのボーイはこうしたセックスツーリズムが日常的に行われていることを明かす。
売春婦は全土で6万人以上
違法にもかかわらず、売春ビジネスはなぜ横行するのか。ナイトクラブやディスコが売春の斡旋をしていることをミャンマー当局(警察、国軍、政府)は知っていて、摘発はたまにするものの、店側が賄賂を渡して逃れることは日常茶飯事だからだ。店側は賄賂を支払うことで営業許可や時間帯で便宜を図ってもらう。当局は多くのポケットマネーを手にしていると聞く。この癒着関係が売春ビジネスのなくならない理由のひとつだ。
ただより深刻なのは、売春に進んで身を投じる若者(多くは女性)が後を絶たないこと。また、セックス目当ての客(外国人旅行者など)が増え続けていることだ。
経済発展が著しいミャンマーとはいえ、都市部でも1日精一杯働いて5000チャット(約500円)稼げれば良いところ。客がつけば一晩で5万~10万チャット(5000~1万円)の大金を手にできる売春が魅力に映るのは無理もない。旅行者にとってみれば、まだ途上国であるミャンマーは周辺国に比べて物価が安く、夜遊びも安上がりだ。
「ミャンマーでは女性のセックスワーカーは少なく見積もって6万人。その半数近くがヤンゴンで働いている」。ミャンマーでHIVや売春問題に取り組む団体SWIM(Sex Workers in Myanmar Network)は2013年のレポートで報告する。セックスワーカーの多くが貧しい地方の出身で、高収入の仕事を求めてヤンゴンやマンダレーなどの大都市に出てきたという。