売春できるだけマシ?
HIV、ドラッグ、精神・身体的な負担、社会的な差別など多くのリスクがある売春。人に言えない仕事であっても、働き口があるだけまだマシ――。こう見る向きもある。
「はっきり言って、何のスキルもない地方の若者が都市部で仕事を得るのは不可能に近い。店に雇われているセックスワーカーは運の良いほう。収入の何割かを店に払う代わりに客の紹介、住居や食事を提供してもらえる。フリーだと今夜客がつくかつかないかが死活問題になる」。タイとミャンマーに合わせて10年以上の滞在歴がある邦人男性はこう話す。
しかし無理な働き方は長く続かない。夜の商売は「若くてスタイルが良いこと」が売りだ。クラブやディスコで客を取れるのはせいぜい20代のうち。また、夜の世界で働く女性(男性の場合も)は家庭が貧しい、片親しかいない、家族が働けないなどほぼ例外なく「ワケあり」だ。そのため客を取れなくなると途端に生計手段をすべて失うケースが多い。
家族を養うため、自立して生活するため、生きるのに必死なセックスワーカーとそれを食い物にする外国人旅行者で成り立つセックスツーリズム。売春が貧困層の「生活の糧」に現実としてなっている以上、売買春をやめろ、とは一概に言えない気もする。
ミャンマーを訪れる観光客は2015年に初の450万人を突破し、民主政権が誕生した2016年は600万人を超すとミャンマー観光省は予測する。「微笑みの国ミャンマー」が「セックスツーリズム大国」になる‥‥。そんなシナリオは想像したくない。しかし、隣国タイの例をみるように、ミャンマーでも経済と観光業の成長に伴ってセックスワーカーの数が急増し、社会問題化する可能性は大きい。
売り手と買い手がいる限り、セックスツーリズムはなくならないだろう。ただせめて売春問題やそれに伴う未成年労働、HIV問題を社会に訴えたり、社会的弱者のための職業訓練の機会を設けてはどうか。今がほぼ野放し状態だとすれば、こうしたセックスワーカーの状況を改善するためにできることは少なくないはずだ。
気づけば時刻は深夜の1時。ミャンマーにはその国民性らしく健康的な発展を遂げてほしい。こんな思いを胸に秘め、私は人けが引いたクラブを後にした。(おわり)