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5月26~27日の伊勢志摩サミットは、2030年までに極度の貧困の終焉をうたう「持続可能な開発目標(SDGs)」が15年9月に採択されてから初めてのサミットだ。SDGsを達成するためには、資金をいかに動員するかが重要。ところが、「政府開発援助(ODA)の支出額を国民総所得(GNI)比0.7%に増やす」と先進国が1970年に合意した国際公約を守っている国は、G7(主要7カ国)の中では英国しかない。
■日本のODAはポルトガルと同水準?
MDGs(ミレニアム開発目標)ギャップタスクフォースの「グローバル・パートナーシップと開発に関する報告書2014」によると、G7諸国は、英国が唯一0.72%に達している以外、フランス0.41%、ドイツ0.38%、カナダ0.27%、日本は0.23%、米国0.19%、イタリア0.16%(2013年)。日本は平均の0.30%より低く、ポルトガルと同じだ。G7以外では、ルクセンブルクが1.00%、スウェーデンが1.02%、ノルウェーが1.07%で最も高く、スロバキアが0.09%と最も低い。
英国がODAに熱心な理由について、国際協力NGOのネットワーク団体「動く→動かす」の稲場雅紀事務局長は「英国では、『途上国で利権を得ることで英国が享受してきた繁栄を今後も継続するためには、援助を続けることが重要』という考えの人もいれば、『植民地支配など、英国が歴史的に犯した罪悪を反省し、正義を実現するためには、貧しい国を援助することが必要』という、真逆の考えの人もいる。おもしろいのは、考えのプロセスは違っても、いずれも帰着点としてODAを支持していること」と説明する。
英国は実際、他国を利用して発展してきた歴史がある。18世紀の太平洋三角貿易で英国は巨大な富を得て、文字通り「大英帝国」を築いた。雑多な工業製品を西アフリカに輸出し、奴隷を買い付けた。その奴隷を米国に転売し、砂糖や綿花、タバコを欧州へ運んだ。インドから輸入していた綿花の自国内での生産とそれに伴う産業革命にも、大西洋三角貿易で蓄えた資本を利用した。
援助とは相反するように見える「利権の論理」がなぜ、ODA支持に行き着くのか。「それは、英国の人たちが他国から利益を得てきた歴史を理解しているからだ」と稲場氏は強調する。「それに比べて、日本人には他国から便益を享受してきたという意識が低い。日本人は自分たちのみで発展してきたと誤解している。しかし、日本は原料を外国から輸入し、それを元に製品を作り輸出する加工貿易を行って、現在の経済的繁栄を実現してきた」と指摘する。
■軍事費はODAの10倍でいいのか
正義という文脈では、英国には援助のみを担当する省庁「国際開発庁(DFID)」がある。主な援助先は、英国がかつて“搾取”した旧植民地のサブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカと南アジアだ。基本は、有償資金協力(ローン)ではなく、無償資金援助。英国の国益ありきという考えではないというのが特徴だ。
英国にはまた、途上国を援助する世界最大級の国際NGOの本部がいくつもある。そのひとつオックスファムは、貧困をなくすことを掲げて、世界90カ国以上で活動する。調査会社UNIVERSUMが2013年に発表した各国別人気就職先調査によると、オックスファムは英国で3位だった。またプラン・インターナショナルは、途上国の子どもに焦点を当てた地域開発を進める。世界51カ国で活動する。
そもそもODAはGNIの0.7%に達すればそれでいいのか。稲場氏は「世界全体のODAは現状で約15兆円。日本のODAは約5000億円だが、防衛費は約5兆円にのぼる」と言う。世界銀行によると、2014年の軍事費は、第3位のインドが1800億ドル(約19兆円)、第2位の中国が約3800億ドル(約41兆円)、最も多い米国は約6100億ドル(約66兆円)だ。
ODAの資金は限りがあるという指摘について稲場氏は「見方を変えれば、歴史的に作られた思い込み、相場観のなせるわざだともいえる。主要国はODAの5~10倍の金を軍事費に使い、それで良いことになっている。しかし、実際にそれだけのお金を使って、何をしているか。1500億円もするイージス艦は、何十年かの海洋巡航の後、古くなって捨てられるわけだ。軍事費ももとは税金だが、こういう使い方をしても構わないというのが国民合意になっているようだ。同じお金をODAに充てれば、もっと有効に使えるのではないか」と話す。
日本を含め、先進国も新興国も、そんな軍事費に資金を積極的に投入しても、ODAには消極的だ。ODAをなおざりにする考えからいかに脱却できるか――。このマインドチェンジこそが、貧困をなくすうえで大きなポイントになるといえそうだ。