「ハロードクター」を使えば、診察料が安くなる――。ハロードクターとは、携帯電話アプリやウェブサイト、電話を使って、利用者が医者に健康相談できるモバイルヘルスのひとつだ。2010年に南アフリカでサービスを開始。現在はコートジボワール、ガーナ、ザンビア、ケニア、スワジランドのアフリカ6カ国、東南アジアのインドネシアへと拡大し、利用者は全世界で51万5000人(アフリカ34万人、インドネシア17万5000人)に上る。専門家による健康相談を、病院に行かなくても携帯電話で受けられるのが特徴だ。
ハロードクターを運営するのは、南アフリカに拠点を置き、保険ビジネスを中核に事業展開するMMI ホールディングス。利用者は昼夜を問わずいつでも、医学博士号を持つ登録医師に相談できる。利用料は、契約内容により異なる。南アフリカではMMIの生命保険商品であるモメンタム、メトロポリタン、ガードリスクに加入するとハロードクターを利用できる。
だが現実をみると、貧困層のほとんどは生命保険に加入していない。南アフリカの生命保険加入者は2014年時点で881万人と、総人口5400万人のわずか16%だ。またインターネットや電力などのインフラが整備されていなければ、ハロードクターを利用できないという課題もある。
こうした問題を背景に、ハロードクターは、保険に入っていない貧困層も利用できるサービスを作った。2015年にケニアで始まった「セマドク」(スワヒリ語でハロードクターの意)だ。ケニア中央銀行、ケニアで携帯電話シェア67%をもつサファリコム、MMI傘下の保険会社メトロポリタンキャノンと提携。利用者はサファリコムの回線を使い、エムペサやエムシャワリといったモバイルバンキング口座から料金を支払う。月間利用料は300ケニアシリング(約326円)だ。セマドクではまた、利用者の予防教育としてヘルスケア情報も毎日配信している。治療費の貯金・ローンサービスも手がける。
米国の市場調査・コンサル会社のフロスト&サリバンは2015年にハロードクターを「最も優秀なモバイルヘルスアプリ」として表彰した。またナイジェリアのメディア「パルスナイジェリア」が選んだ「アフリカの医療系アプリトップ7」にも、ハロードクターはランクインしている。
モバイルヘルスは、HIVやマラリアなどの感染症予防に有効といわれる。ハロードクターのようなモバイルヘルス市場は年々拡大しており、調査会社リサーチ・アンド・マーケットの予想では2022年の市場規模は全世界で約556億ドル(約6兆円)に達する見通しだ。