「アフリカの人たちの笑顔に惹かれ、彼らを幸せにしたいと思った」。早稲田大学2年生の大嶋康浩さんは7月から1カ月、ナイジェリアの首都ラゴスに滞在し、現地のスタートアップ企業(設立間もない企業)を調査する。主にIT企業がナイジェリアで急成長した理由を明らかにし、その結果を日本企業に報告する。日本企業をナイジェリアに呼び込み、現地の雇用を増やしたいという。
■きっかけはマザー・テレサ
アフリカを支援したい、との思いがわいたのは小学生のころ。インド・カルカッタのスラム街の子どもを対象とした無料教育や「死を待つ人の家」の活動など、マザー・テレサのことを知り、感銘を受けてからだ。だが大学1年の夏に2カ月間、在日ルワンダ大使館でインターンをするまで、何をするかは決められずにいた。
「ルワンダ大使館で翻訳業務をしたり、JATA(日本旅行業協会)が主催するイベントのブースで手伝いをしたりする中で、アフリカのIT産業がすごく成長していると知った。ビジネスチャンスだ、と思った」と大嶋さん。アフリカでITビジネスをしたいと考え、日本国内のベンチャー企業やベンチャーキャピタルの代表を訪ね、事業計画を練った。
2016年2月、サイバーエージェント・ベンチャーズ(東京・新宿)のインドリサーチャーを務める河野優人さんと出会い、大嶋さんの事業計画が決まった。
河野さんは、インドで調査したビジネス環境などのデータを元に、現地で有望なITスタートアップ企業を発掘し、日本からの投資を促す仕事をしている。大嶋さんはこのやり方を、アフリカ最大の市場で、また国レベルで起業家の育成を推し進めるナイジェリアで応用しようと考えたのだ。
■渡航費はクラウドファンディングで
大嶋さんはまず、クラウドファンディングを使って、ナイジェリアへの渡航・滞在費の25万円を集めた。名目は、日本人とアフリカ人の起業家・投資家とのネットワークを形成すること、アフリカ市場をリサーチすることだ。
5月に入ってからは、日本のIT企業などおよそ20社にメールや電話でアプローチし、ナイジェリアのITやEC産業についての調査を代行します、と売り込みを始めた。調査料金は10万円から。内容は企業にあわせてカスタマイズする。すでにいくつかの依頼を受けているという。
大嶋さんは「この調査ビジネスが成功すれば、将来はマクロミル(インターネットを使ったリサーチをする大手企業)のようにアフリカで調査モニターを募集したい」と青写真を描く。
■1カ月で20~30社を訪問したい
大嶋さんが特に力を入れたい調査分野は、ナイジェリアのIT産業のなかでも、とりわけ市場規模が大きいフィンテック(金融のIT化)とECサイトだ。ECサイトの事業環境、消費者の嗜好、人口構成といった情報をヒアリングなどで入手し、分析し、レポートを作る。
滞在中の目標は、ナイジェリアのスタートアップ企業20~30社を訪問すること。同時に、ラゴスの大学生起業家や、貿易業や飲食業に携わるレバノン人、インド人、中国人とのネットワークを築く計画だ。
「日本の投資家や企業は、アフリカのビジネスチャンスを狙っている。だがナイジェリアに限らず、アフリカのスタートアップ企業に特化した調査はない。日本企業は、信頼できるビジネスパートナーは誰なのか、どんな通信機器が普及しているのか、疑問だらけで『何がわからないか、わからない』といった状態に陥っている」(大嶋さん)
ベンチャーキャピタル関連ネットワーキンググループのVC4Africaによると、2014年時点のアフリカのベンチャー企業数は2600社で、前年から1.5倍増えた。同年のベンチャー企業への投資額は2700万ドル(約32億円)だった。ベンチャー企業の半数がスタートアップで、主な分野はコンピュータソフトウェア、インターネット、EC関連。ベンチャー企業の23%がナイジェリアにある。