カタールW杯・東京五輪で外国人労働者が酷使されている! 「日本企業も無関係ではない」とアジ研研究員

カタールW杯会場の建設現場に佇む外国人労働者(写真はFIFAホームページより© LOC)

2022年に開かれるサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会、2020年の東京オリンピックに向けた建設ラッシュの陰で、外国人労働者が奴隷のように酷使されている。「日本企業も無関係ではない」。こう指摘するのは、アジア経済研究所の佐藤寛上席主任調査研究員だ。世界中を熱気に包む巨大スポーツイベントを、低賃金で働かされる外国人たちが支える実態がある。

カタールで7000人が死ぬ?

労働組合の国際組織「国際労働組合総連合(ITUC)」によると、カタールでは2010年1月~2014年3月に1200人の労働者が死亡した。このほとんどはネパールやインドから出稼ぎに来た外国人。2022年11月のW杯開幕までに7000人の死者が出る可能性もある、とITUCは懸念する。

またカタールのハマド・メディカル・コーポレーションによれば、2014年は1日平均2800人が病院に緊急搬送されたが、この数は前年と比べて20%以上も多い。建設現場の事故の急増が背景にあるのは明らかだという。

カタールの人口は約277万人。国連の推計では人口の74%(約160万人)をネパールやインド、バングラデシュなどから出稼ぎにやってきた外国人労働者が占める。建設労働者にいたっては99%、数にして約63万人が外国人だ。

問題は、外国人が不十分な安全管理のもとで長時間過密労働、賃金不払いなど、劣悪な環境にさらされていること。この元凶とされるのが「現代の奴隷制度」と国際的に揶揄される「カファラ」制度だ。

■大手建設会社の4割が進出

カファラ制度とは、カタールをはじめ中東湾岸諸国に根付く特有の労働契約制度のこと。雇用主が保証人となって、外国人労働者に職を提供し、ビザを発給する代わりに、労働者からパスポートを取り上げる、というのがやり方だ。外国人労働者は、雇用主の許可なしに職を変えることも、出国することもできない。

国際的な批判を浴びたためカタール政府は2015年末、外国人労働者が出国する際の申請先を雇用主から内務省に変更した。だが搾取の実態は何も変わっていないといわれる。

ITUCによると、世界の大手建設会社250社の40%以上がカタールの建設プロジェクトにかかわっている。佐藤上席主任調査研究員は「関係ない問題だと無関心な日本企業は多い。だが日本企業が受注する案件でも、下請け、孫請けで、知らない間に外国人労働者の人権問題に関与している可能性はある」と警鐘を鳴らす。

カタールに進出する日本企業には、大林組、大成建設、竹中工務店などがある。W杯の開催にあわせ、2019年にはハマド国際空港とW杯の会場をつなぐ、同国初の地下鉄「ドーハメトロ」が開業する。この鉄道システムを構築するのは、三菱重工業、三菱商事、日立製作所、近畿車両などで構成するコンソーシアムだ。

■技能実習は“日本の奴隷制”?

東京オリンピックでも、外国人労働者の酷使が危惧されている。問題の温床となっているのが「外国人技能実習制度」だ。日本政府は、東京オリンピックをにらみ、建設現場の労働力不足が予想されることから、2015年から2020年までの時限措置として、建設分野の技能実習生が日本で働ける期間を従来の3年から5年に延ばした。

外国人技能実習制度は1993年、途上国への技術援助という名目で日本政府が始めたもの。この制度の運用機関である国際研修協力機構(JITCO)によれば、2015年に来日した技能実習生は、中国やベトナムなど12カ国以上から約6万6000人(前年比24.2%増)。分野別では「建設」が約1万1000人と、「機械・金属製造」に次いで2番目に多くなっている。前年比65.2%の急増だ。

外国人技能実習制度について、ベトナムの労働法を専門とする斉藤善久・神戸大学大学院准教授は「人手不足に陥る中小零細企業が、外国から来た技能実習生に低賃金で過重労働を強いているのが実態。人身売買や強制労働だ、と国際的にも非難されている」と批判する。

■実習生の失踪率は3.8%

問題の深刻さを懸念して日本弁護士連合会は2011年、「外国人技能実習生は、実質的に低賃金労働者として働かされている。パスポートや預金通帳を没収されるなど、悪質な人権侵害行為も横行している」と、制度の廃止を訴える提言を法務相に提出した。ところが改正法案は衆議院にかかりっぱなしで、なかなか進んでいない。

JITCOのデータでは、外国人技能実習生8万2533人の3.8%に当たる3139人が2014年に行方不明となった。過酷な労働環境を理由に、逃げ出す実習生が続出しているためだ。2011年に1115人だった行方不明者は3年で3倍近くまで急増した。

「2022年のカタールW杯、2020年の東京オリンピックと、奇しくもほぼ同じ時期に建設ラッシュが起こる両国で、外国人労働者の酷使が問題となっている。日本もカタール同様、国際的に大きな批判を浴びかねない」と佐藤上席主任調査研究員は危惧する。