1996年から紛争が続くコンゴ民主共和国(コンゴ民=旧ザイール)東部で紛争被害者の自立を支援するNGO「テラ・ルネッサンス」(京都・四条)の栗田佳典氏は6月20日、コンゴ民の現状や同団体の取り組みをテーマに神戸市内で講演した。JICA関西が主催する市民向け連続セミナー「アフリカの今」の一環。栗田氏は「コンゴ民の紛争犠牲者の96%は救えた命。もっとコンゴ民に関心をもってほしい」と強く訴えかけた。
■銃撃死よりも「マラリア死」
栗田氏によると、コンゴ民東部の紛争の死者約540万人のうち、銃撃などの「直接的暴力」で命を落としたのはわずか4%(約21万6000人)だという。対照的に、感染症や栄養失調など「間接的暴力」による死者は96%(約518万4000人)と、圧倒的に多い。なかでもマラリアで死亡する人が後を絶たない。栗田氏は「マラリアは必要な治療があれば治る病気。コンゴ民の紛争犠牲者のほとんどは救えた命だ」と主張する。
コンゴ民の東部で特に深刻なのは、乳幼児死亡率の高さだ。栗田氏によれば、子どもの5人に1人は5歳まで生きられない。避難先できれいな水や十分な食事を確保できず、栄養失調や下痢で命を落とすケースは珍しくない。
コンゴ民東部では、国内避難民が避難先で十分な支援を受けることができていないのが現状だ。栗田氏は「コンゴ民東部への支援は慢性的に不足している。その最大の理由は国際社会の無関心。ひとりひとりの関心が高まれば、支援も増えるのでは」と説明する。
■外資系NGOは1つしかない
栗田氏が加えて指摘するのは、コンゴ民政府の腐敗とコンゴ民国内での支援活動の難しさだ。テラ・ルネッサンスがコンゴ民政府に活動許可を申請したところ、「現地職員には月収1000ドル(約10万5000円)与えろ」など、ありえないほどの法外な条件を突き付けられたという。年収換算だと1万2000ドル(約125万円)になる。コンゴ民の1人当たり国内総生産(GDP)は306ドル(約3万2000円。2014年、世界銀行)であるにもかかわらずだ。
「コンゴ民で外資系NGOが活動するのは困難だ。現地職員の助けがなければ活動できない」と厳しい表情で語る栗田氏。コンゴ民東部の南キブ州カロンゲで、紛争被害者の自立を継続して支援する外資系NGOはテラ・ルネッサンスしかない。「コンゴ民東部は治安が流動的。JICA(国際協力機構)などの政府機関はおろか、民間企業も近づけない。NGOは制限を受けずに活動できる。より多くのNGOがコンゴ民東部で活動することで、救える命も増えるはずだ」と訴える。
テラ・ルネッサンスは2006年、コンゴ民東部のなかで最も紛争が激しい南キブ州カロンゲ区域で支援を開始。現地NGOと提携し、12の村・711人の紛争犠牲者(元子ども兵、性暴力被害者、孤児)を対象に、食料や衣服、住む場所など人間の基本ニーズ(BHN)の拡充を目標に自立を支援してきた。「コンゴ民の現状を知ることも支援のひとつ。友人や家族にコンゴ民の話を伝え、関心の輪を広げてほしい」と栗田氏は講演を締めくくった。