神戸市とルワンダの首都キガリ市はこのほど、「ICT(情報通信技術)パートナーシップ協定」を締結した。神戸市は今後5年にわたって、神戸をはじめ東京や大阪にあるICT企業の担当者をキガリに連れていき、ルワンダ人がもつICTビジネスのアイデアに投資できるよう橋渡しをする「ルワンダビジネスマッチングツアー」を実施する。日本企業がアフリカへ進出する足がかりを作りたい考えだ。
■ルワンダ人と日本人は相性良し
ICTパートナーシップ協定を実現するために神戸市が計上した2016年度の予算は500万円。仕掛け人の神戸市医療・新産業本部の多名部重則課長は「ルワンダは汚職が少ない。ビジネス環境も比較的良い。シャイで目上の人を敬う国民性は日本企業に受け入れやすい。ルワンダのICT人材と日本企業が協業すれば、興味深いイノベーションが生まれるのでは」とは期待を膨らます。
ビジネスマッチングツアーで訪問するのは、ICTビジネスの起業を支援するインキュベーションセンター「Kラボ(Knowledge Lab)」だ。Kラボは、国際協力機構(JICA)などが2012年にキガリにオープンさせたもの。Kラボに登録するルワンダ人のICT技術者は現在120人いる。
Kラボを訪れる日本企業の担当者に対し、ルワンダ人の技術者らは、自らが開発中のアプリなどをプレゼンする。日本企業のお眼鏡にかなえば、ビジネスが成立する。最初のマッチングツアーは2016年5月に催行したが、「参加した8社のうち3社がすでに、ルワンダ人とビジネスの商談を始めた」と多名部さんは手応えを話す。
2016年度はあと2回、このツアーを催行する予定だ。「2020年までの目標として、マッチングによるビジネス創出を10件としていた。だがこのペースだとすぐに達成しそう」と嬉しそうだ。
マッチングツアーと並行して神戸市は、ルワンダ人へのICT教育プログラムの提供も構想している。国際協力機構(JICA)が助成金を出す「草の根技術協力事業」に申請しているところ。採択されれば、神戸情報大学院大学や日本のICT企業の協力を得て、Kラボに、ICT教育プログラム用のサテライト(遠隔で授業をする)クラスを設置する。
ルワンダでは キガリ工科大学がICTの人材を育成している。ところが卒業しても企業では即戦力にならないという。神戸市が計画するICT教育プログラムでは、実践を重視した内容にする計画だ。
■ICTはルワンダのほうが上!
神戸市がルワンダのICT産業に注目したのは2014年10月のこと。小川和也・在ルワンダ日本大使が久元喜造・神戸市長に、ルワンダのICT産業成長計画とビジネス投資環境の良さを話したのがきっかけだった。「ルワンダと神戸市、ICTで何かできるかも」と、久元市長の心の中にルワンダICTへの興味が生まれたという。
多名部さんがルワンダについて調べたところ、神戸市にルワンダ人留学生が12人いることが分かった。神戸情報大学院大学のICTイノベーターコースで実践教育を受けていたのだ。
ルワンダ人一行は、2013年に横浜で開かれた「第5回アフリカ開発会議(TICAD V)」で安倍晋三首相が発表した「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)」の一環として来日していた。ABEイニシアティブは、5年間で1000人のアフリカの若者に、日本の大学・大学院での教育、日本企業でのインターンシップの機会を提供するプログラムだ。
多名部さんは2015年5月、キガリへ飛んだ。1週間の滞在中にKラボを訪問。ルワンダの課題をICTで解決したいと夢見る若者たちと話をした。
「日本よりもルワンダのほうがICTビジネスが進んでいることに驚いた。ルワンダではバイクタクシーの位置情報(GPS)が、MTNやティーゴといった通信会社を経由してオープンデータ化している。スマホアプリでバイクタクシーの現在地が分かり、顧客はすぐにバイクタクシーを呼べる」(多名部さん)
日本では考えつかないICTビジネスをルワンダは生む力を秘めている、と確信した多名部さん。ただルワンダ製のアプリにはバグや不具合が多いというネックがある。「ビジネスの視点から日本企業がルワンダの技術者にアドバイスすれば、アプリの質も上がる。日本企業にとっても、アフリカでビジネスできるチャンス。ウィンウィンになるのでは」と考えた。
神戸市とルワンダは、いずれもICTをてことする経済成長を政策目標に掲げている。神戸市は2015年からICTのスタートアップ企業を支援し、産業の活性化につなげようとしている。
ルワンダは、ICTで経済をけん引させる国家戦略「スマート・ルワンダ」を策定。ルワンダ人のおよそ7割が就労する農業分野の低い生産性をICTで向上させたり、国民の住所登録を電子化させたりといった取り組みを進めているところだ。