途上国の医療事情が学べるツアー研修「国際保健研修inセブ」が9月に開かれる。フィリピン・セブでの病院実習や市民生活の視察などを通して、予防医療など途上国に貢献できる人材づくりを目指す。現場の医療や生活事情に触れ、途上国の医療・現場に必要な課題解決を考える。現在、参加者を募集している。
■英語で全身火傷の治療手伝う
「Hold his legs!(足を抑えて)」―。2015年夏、セブ市立病院の救急外来。現地のドクターが、ツアー研修で病院実習に訪れていた日本人大学生たちに英語で指示を出した。工事現場で感電して全身火傷を負った20代の男性患者が、痛みで暴れている。大学生らは数人がかかりで患者を抑え、救急処置を手伝った。
研修の参加者は他にも火傷を負った8歳の少女の治療も手伝った。傷口が膿んで泣き叫ぶ少女を英語で励ましながら包帯を巻いた。
多くの日本人にリゾート地として知られるセブ島。最近は、欧米ではなくリゾート感覚で英語を学びに来る日本人学生も急増している。しかし、貧困地区を中心に、一部区域の衛生・インフラ環境はリゾートのイメージとは程遠い。
貧困地区を中心に下水道の未整備が多く、異臭が漂う。年間平均気温25度の中でも、生肉や惣菜が不衛生に陳列され、食中毒は日常茶飯事だ。
前述の患者のような例も少なくない。建設ラッシュの工事現場では労働者がむき出しの電線から感電するケースもある。またセブではBBQスタイルでの調理が一般的だが、路面未整備による不安定さから炭が倒れてやすく、火傷につながる。
「日本人から見れば、予防できる感染症や外傷が多い」。こう指摘するのは今回の研修ツアーを企画・運営する後藤陽氏だ。看護師資格も持つ。2011年からセブにわたり、医療専門のオンライン英会話スクールを起業した一方で、現地の医療・衛生現場を目の当たりにしてきた。
■途上国の医療現場で即戦力に
研修日程は9日間。語学学習や病院実習を実施するが、重視しているのは市民生活を観察し、病気や外傷の原因につながる課題を見つけるワークだ。後藤氏自ら、参加者と街を歩きながら解説する。「普段の生活を知れば、治療にとどまらず、今後の生活へのアドバイスなど予防医療や啓蒙活動につなげられる」(後藤氏)
実際、セブの医療の質自体は悪くないが、処置して終わり、というケースが多いという。さらに、貧困層は費用が工面できないため医療機関にすらかかれない。ならば、病気やけがの予防にいかに貢献できる人材になれるのかが重要だというわけだ。
研修ツアーでは病院実習や市民との対話を通して、患者の生活上の課題を探す。参加者がそれぞれ改善に何が必要か考え、全員で解決策をディスカッションする。子どもたちを対象にしたワークショップも開き、具体的に改善につなげるようにする。
実施は今回で2回目。前回の参加者は医大生や看護学生などが多く、医療現場で活躍する。文系学部に所属していた女子大生もツアーがきっかけで、「患者目線の医療」を志し製薬企業のMR(医薬情報担当者)として医療現場で働くことになった。
後藤氏は「途上国の医療現場で貢献したいと考える人は多いが、即戦力になるには語学習得だけでは不十分だ。途上国の医療・衛生現場の課題を肌で感じ、小さなことでも一緒に解決策を考えたい」と参加を呼び掛けている。