インドネシアを中心にムスリマ(=イスラム教徒の女性)の間で、色鮮やかで宗教の規定に則った服装が流行している。インドネシア文化の専門家は「日本の着物もイスラム的といわれる。ファッションを通じ、相互の文化理解につながれば」と強調する。
■最低限のルールは3つ
黄色や水色、ピンクにオレンジ‥‥。イスラム教の教えに則って髪を隠す布「ヒジャーブ」。インドネシアでは近年、カラフルで独創性のあるデザインが増えている。
日本人がイメージしがちな黒や白の布を着けされられている「抑圧」とは違う。
各地でファッションショーも開かれる。インドネシア政府も経済成長の重点分野とし、マレーシアやシンガポールからのイスラム教徒の観光客が増えている。
クルアーン(コーラン)には「ヴェールを胸の上に垂れなさい」「長衣をまとう」と規定がある。一方で、服の長さや覆う箇所など細かい解釈まではない。解釈は国・地域で異なる。
インドネシア文化に詳しい慶応義塾大学の野中葉専任講師は「インドネシアでは①顔と手以外を覆う②透けない③体のラインを見せない、のが3大条件だ」と解説する。
その点、「日本の着物は、頭髪を覆えばムスリマも着られる」と言う現地デザイナーもいるという。腰に帯を巻いた「kimonoスタイル」という服もファッションショーで披露された。
■宗教の象徴が「カワイイ」に
そもそもブームは、1998年のスハルト政権崩壊が契機だ。民主化・経済成長とともに、宗教に沿ったライフスタイルも注目されるようになった。
ところが、当初はヒジャーブを被る女性に偏見もあった。今のフランスと同じく、スハルト政権では、公立学校での着用が禁止された時期もあったためだ。銀行の窓口やアナウンサーなど人目につく仕事には就けないこともあったという。
その中で、2000年代から「教えに適いつつ若い女性が着る服がない」とデザイナーたちが立ち上がった。
火付け役の1つが、2003年に創刊されたファッション誌「NooR」。毎号の表紙に鮮やかなムスリマ服を着た女優やモデルが起用され、徐々に市民権を得た。
2008年頃からは、それまで映画やドラマではほぼ脇役だったヒジャーブ着用の女性が、ヒロイン役として出演するようになる。
2011年にはモデルたちなどが「ヒジャーバーズ・コミュニティ」というネットワークを立ち上げた。ネットなど草の根でヒジャーブの「カワイイ」巻き方の情報発信を続けている。
■市場規模は51兆円!
インドネシアは2億人以上の人口の約9割がイスラム教徒。イスラムファッションは、イスラム金融、ハラール食品に次ぐ成長市場との見方も強まっている。
野中氏も「ファッション的な流行はあっても、宗教に則っているためニーズは続くだろう。同じファッションを楽しむ女性として、ステレオタイプなイスラム文化のイメージ払しょくにつながれば」と強調する。
トムソン・ロイターによると、全世界のイスラム教徒の衣服・ファッション消費額は2013年に2660億ドル(約28兆円)と、日本とイタリアを合わせた支出を上回った。2019年には1.8倍の4820億ドル(約51兆円)まで成長すると見込まれている。
他のイスラム教国にも広がるのか。それは少し時間がかかりそうだ。
現にインドネシアでは湾岸諸国向けの服を意識するデザイナーはいるが、多くが欧州やオーストラリアのムスリマをターゲットにしているという。
サウジアラビアでは「目以外を覆う」となるなど、国や地域によってクルアーンの解釈や政治・社会背景が異なるからだ。
野中氏は日本企業も通気性の良い素材などで商機はあるとみるが、「地域による服のスタイルや価格のニーズを細かく調査する必要がある」と話す。