サーカスが人生を切り開く! カンボジアの地方出身者がイタリアで公演も

シェムリアップにある「カンボジア・サーカス・ファー」は1日に200~300人の外国人が訪れる人気の観光スポット。サーカスの演目「エクリプス」で魅力的な美女を演じるスレイレアックさん

カンボジア・シェムリアップで人気の観光スポットのひとつが「カンボジア・サーカス・ファー」だ。サーカスといっても空中ブランコや動物を使ったパフォーマンスはない。演劇のようにストーリーがあり、その中にジャグリングやアクロバティックなダンスが組み込まれているのが特徴。1回の公演に参加するパフォーマーは十数人。全員が貧しい家庭出身のカンボジア人の若者で、彼らは、カンボジア西部のバッタンバン州にある同じサーカス学校の卒業生。一人前のパフォーマーになるまでのストーリーを追ってみた。

パフォーマーへの第1のステップは「自分の才能を見出してもらうこと」。ファーで中国ゴマを担当する男性パフォーマー、サメディさんは「サーカス学校の先生に、自分がサーカスに向いていると教えてもらった。体を動かすことも好き」と、天職に就けた喜びを爆発させる。

第2のステップは「自信を得ること」だ。サーカスは、パフォーマーに自信を与える。観客の大半は外国人観光客。「公演中に、海外から来た人から拍手喝采を浴びたり、カンボジアの歴史と生活について観客と共有できたりした時、サーカスをして良かったと感じる」と、女性パフォーマーのひとりスレイレアックさんは語る。パフォーマンス中の彼女は自信に満ち溢れている。

スレイレアックさんはこれまでにイタリアやスペインなど世界11カ国で海外公演も経験した。カンボジアの神話をベースに作った演目などを上演し、「これがカンボジアだ、と世界中の観客に伝えることができた」と彼女は胸を張る。

第3のステップは「家族を支えられること」。ファーのパフォーマーの月収は、カンボジアの最低賃金140ドル(約1万4300円)の数倍だ。スレイレアックさんは自分の給料で、母や11人のきょうだいを養う。16歳で父を亡くした彼女は「家族を支えられることは嬉しい」と語る。

ファーは、カンボジアのNGOファー・ポンルー・セルパク(PPS)が運営するアートスクールからパフォーマーを採用する。PPSは1995年にバッタンバン州で創設された。当初は内戦で親を亡くし、傷付いた子どもたちがカンボジア人としてのアイデンティティーを取り戻すことを目的に絵画教育を実践した。現在は社会・経済的理由で困難な状況にある子どもに、絵画に加え、音楽、サーカスのコースを提供している。

中国ゴマのパフォーマンスに加えて、生きのいい掛け声をあげ、周りを盛り上げるサメディさん。舞台に立った時の彼の輝く表情は、公演前にインタビューした際とはだいぶ違った

中国ゴマのパフォーマンスに加えて、生きのいい掛け声をあげ、周りを盛り上げるサメディさん(左)。舞台に立った時の輝く表情は、公演前にインタビューした際とはだいぶ違った