アフガニスタンの学校で、防災教育の支援が試験的に始まった。現地は日本と同じ地震大国だが、防災教育はほぼない。2015年の大地震では、避難中の学生が将棋倒しで死亡した。テロが続く治安環境の中、防災理念をどう浸透させられるか。
■初めての避難訓練 泣き出す女の子も
途上国の教育を支援するシャンティ国際ボランティア会(SVA、東京・新宿)のジャララバード事務所(アフガン東部)。ここで16年4月、初めての防災訓練が実施された。
「地震が起きたよ。どうする?」。現地の女性スタッフ・フェリシタさんが5歳から14歳までの120人の子供を前に大声で呼びかけた。
子供たちは事前のレクチャー通り、次々に机の下に身を隠したりして、中庭に避難した。日本では当たり前でも、現地の子供には初の訓練だ。
中には少し緊迫した雰囲気に泣き出す女の子もいた。この事務所は普段、読書や読み聞かせなど教育支援を実施する和やかな場所だからだ。
フェリシタさんは「私たち大人にとっても初めての訓練で、興味深く学べた。死者やけが人を少なくするため、このような訓練は実施した方がいい」と振り返った。
■将棋倒しで死亡 「繰り返さない」
なぜ防災教育が必要か。契機は15年10月に襲ったマグニチュード(M)7.5の大地震だ。
北部タハール州では、学校にいた女子生徒たちが逃げようと一斉に階段に押し寄せて将棋倒しになり、約40人が死傷した。
SVAでアフガニスタン事業を統括する三宅隆史氏は「あってはならない悲劇。我々が支援する学校で繰り返してはいけない」と話す。
アフガニスタンはプレートの衝突箇所に近い地震大国だ。4月にも北東部の山岳地帯を震源とするM6.6の地震があった。
■16年度から防災教育開始
16年度から始めた防災教育支援。9月には、現地の有識者やイラストレーターと共同で作った防災紙芝居が完成する。家庭と学校での地震発生を想定した避難行動を学べる。
さらに、15年に校舎を建設した首都カブールの2校では防災計画を策定する。避難経路の作成に加えて、子供の安否や建物の安全確認など教師側の具体的な役割分担を決めて研修する。
三宅氏は「紛争やテロで、これまで防災政策がなかったが、政府も理解している」と必要性を説く。
■治安の悪化で新事業は遠隔でやりとり…
SVAは03年から教育改善の支援を始めた。これまでカブールなどに37の学校を建設したほか、絵本の出版や図書館の設置・活用についての教員研修を続けてきた。
しかし、治安の悪化で今のアフガニスタンでの新事業は困難を伴う。
政府軍と反政府勢力、タリバンやIS(イスラム国)の衝突もあり、13年からは日本人がアフガニスタン国内に入国することもほぼ不可能になった。この7月にはカブールで80人が死亡する自爆テロがあり、ISが犯行声明を出した。
三宅氏も現地に駐在できていない。日本からメールやスカイプで現地スタッフに指示を送る。3カ月に1度のスタッフ会議はドバイやデリーで開き、教材づくりも手間がかかる。
三宅氏は「目の前でやれば早いのに…」と唇をかむものの、「治安はコントロールできないが、救える命は守りたい。まだ試験的だが日本の経験を生かして広がりを目指したい」と意気込みも見せる。
防災教育は長年にわたる地道な取り組みが必要だ。治安回復が国民にとっては喫緊の課題だが、その中で防災理念をどう定着させていくか。困難はあるが、数多くの災害を教訓としてきた日本の経験は、アフガニスタンの未来をつくる上で役に立つはずだ。