カンボジア地鶏「クメールチキン」で貧困脱却と健康改善! NGOが養鶏ビジネス

オーストラリア系NGO「ダナアジア」がシェムリアップ市郊外で運営する養鶏場。飼育するクメールチキン(カンボジアの地鶏)は広いスペースを動き回ることができる

カンボジア・シェムリアップ市の郊外に、養鶏場と養鶏訓練所を併設させた「プノンデイ・K.J・ライブストックトレーニングセンター(KJC)」がある。運営主体はオーストラリア系のNGO「ダナアジア」。KJCは、ごみ山でごみを拾って生計を立てる人(ウエストピッカー)に養鶏の技術を教え、養鶏場のスタッフとして雇う。貧困から脱却させる手段として、ダナアジアはなぜ、養鶏を、しかもカンボジア地鶏「クメールチキン」の飼育を選んだのか。

第1の理由は「育てやすさ」だ。KJCは、鶏舎の中で地面に放して飼う「平飼い」をしている。このため、狭いカゴの中に1~2羽ずつ詰め込む「ケージ飼い」と比べ、ニワトリは健康的で病気になりにくい。またクメールチキンはカンボジアの地鶏であるため、他の品種よりもこの国の気候に適している。

元ウエストピッカーのチェヨン・ユアンさんは2013年、ダナアジアのスタッフから「KCJで働かないか」と声をかけられ、働き始めた。「ニワトリの飼育は初めての経験。けれども習ってみるとそんなに難しくなかった」と振り返る。

第2の理由は「収益性の高さ」だ。ニワトリは生まれて3カ月半で出荷できる。ブタの6~7カ月、ウシの2年半と比較すると飼育期間の短さは一目瞭然だ。

カンボジアで主に出回っているのは、ベトナムやタイから輸入した安いニワトリ(カンボジアでブロイラーを生産するタイの業者もいる)。シェムリアップ中心部のスーパーマーケット「アンコールマーケット」に行くと、外国産の鶏肉は1キログラム2.5ドル(約250円)で売られている。

これに対して地鶏のクメールチキンは味が良いと人気があるため、付加価値がある。KJCが生産するクメールチキンの値段は、売り先にもよるがだいたい同6ドル(約600円)と外国産の2倍以上。販売先も、高級レストランチェーン「マリスレストラン」などで、大衆の市場と差別化できるという強みをもつ。

ただ養鶏業は出荷規模が大きくならないと採算に乗せるのは難しい。KJCの7月の売り上げは5275ドル(約53万円)。これは採算ラインのおよそ4分の1。ダナアジアは2016年中に単月で黒字を目指すとしているが、そのためには数千羽のクメールチキンを毎月売る必要がある。

第3の理由は「健康」だ。ごみ山の仕事は、衛生上の理由もあって病気になるリスクが高い。チェヨンさんは「養鶏場で働いて一番助かるのは病気をしないこと。毎日働くことができるから」と語る。

チェヨンさんの月収はウエストピッカー時代、20~30ドル(2000~3000円)だった。養鶏場に転職して月収は60ドル(約6000円)と2倍以上に上がったと嬉しそう。言い換えればKJCは、チェヨンさんに、収入アップと健康改善の両方をもたらしてくれたのだ。

ダナアジアのカンボジア人ジェネラルマネージャー、コン・ソファールさんは「(養鶏場のある)プノンデイ村の人たちはいつも、私がどこかに行って帰ってきたら笑顔で出迎えてくれる。村人は家族のようだ。だから村に貧しい人がいればサポートしたい」と笑顔をみせる。

KJCを運営するNGOダナ・アジアのカンボジア人ジェネラルマネージャー、コン・ソファールさん。ジョークが大好きな明るい人柄

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