「ごみ山でウエストピッカー(ごみ山でごみを拾って生活する人)だったころは一日を生きることに精一杯。養鶏を学んで自信がついた。未来を描けるようになった」
こう話すのは、カンボジア・シェムリアップ市の郊外にある養鶏場(運営:NGO「ダナアジア」)で働くベン・ナッさん(22)だ。ウエストピッカーから養鶏家に転身して3年。ベンさんの人生は劇的に変わった。
ベンさんは7人家族。外で働けない父に代わって、母と2人のきょうだいと一緒にごみ山に入り、目ぼしいものを拾っては売る仕事をしていた。ベンさんは1日平均で2ドル(約200円)を稼ぎ、4人合わせても同5ドル(約500円)で7人の生活を支えていた。
ベンさんによると、英語を勉強すれば、シェムリアップではホテルやレストランなど、ウエストピッカーより待遇が良い仕事に就くことができる。ただ幼いきょうだいがいたベンさんは高校1年で中退。「(当時は)その日暮らしで、将来のことは考えられなかった。家族がきょう、あす生きていくためにできることを精一杯していた。ごみ山で働くこと以外、選択肢はなかった」と振り返る。
失望していたベンさんに声をかけたのが、NGOダナアジアの職員だ。「自分の将来に役立つ技術が身に付けられるかもと嬉しかった」とベンさん。ダナアジアからもらう月収は最初40ドル(約4000円)と、ウエストピッカー時代の月収60ドル(約6000円)を下回った。だが気にしなかった。
「ごみ山の仕事は不安定だし、この先上がることもない。そのてん養鶏場の収入は安定している。また自分の頑張り次第で上げることが可能だと思った」
ベンさんが2013年から勤めるダナアジアは養鶏場を経営し、育てたニワトリ(クメールチキンと呼ばれるカンボジアの地鶏)をレストランなどに売る。2016年7月の売り上げは約5200ドル(約52万円)。ベンさん以外にも、元ウエストピッカーが養鶏家として働く。なかでもベンさんは特に頑張る、と周囲の信頼も厚い。ニワトリはスペースを区切って育てるかが、複数のスペースの責任者でもある。
養鶏を一生懸命学んだ結果、ベンさんの収入は、この3年間で5倍に当たる300ドル(約3万円)にアップした。収入が増えて変わったのは家族の生活だ。家族がウエストピッカーから抜け出せるよう、ベンさんはブタやウシを買った。育て方も本で学び、家族に伝える。弟は学校に通わせる。「弟の成績はクラスの中でも良いみたい」と誇らしげだ。
ベンさんはいま、英語やコンピューターを、ダナアジアが養鶏場で提供するクラスで学び始めた。こうしたスキルは将来に役立つと考えているからだ。
養鶏を学び、自信を付け、人生の選択肢が広がったベンさん。「将来は自分で養鶏場を経営したい。ごみ山の子どもたちに、養鶏の技術を教え、従業員として雇いたい」と目を輝かせる。