日本の「しょうゆ」や「だし」はミャンマーに普及するのか――。ミャンマー最大の都市ヤンゴンで8月18日~20日、食品エキスポが開かれた。同時開催の小売エキスポと合わせると、来場者は総勢2969人、出展企業は100社。この中に、和風調味料を取り扱うアサンサービス(本社:タイ・パトゥンタニ県)とかね七(本社:富山市)があった。この2社は「日本の調味料をミャンマー市場に売り込む」という目的こそ同じだが、狙いを定める顧客層は、アサンが庶民、かね七が高所得者と正反対だ。
■お好み焼きは「おいしい」
アサンは、世界規模で和風調味料の製造と料理酒の販売を手がける会社。本社はタイに置く。ミャンマーでは庶民層をターゲットに市場開拓をもくろむ。
同社の佐藤健太営業部長は「ソースやしょうゆ、料理酒を30年にわたって売っているタイではここ15年ほど、お好み焼きソースやウスターソース、しょうゆの流行が続いている。中間層の間ではすでに、日本のソースやしょうゆは定着している。ミャンマーはタイの隣国ということで進出を狙っているところだ」と言う。
ミャンマーでも日本のソースは庶民の多くが利用する屋台で使えるはず、というのが佐藤氏の考えだ。値段も高くない。「まずは庶民層を中心に広めていきたい」と意気込む。
食品エキスポに来ていたミャンマー人男性のスースーウィンさんは、アサンが出したお好み焼きを試食して「ミャンマーにはない味。だけどおいしい」と気に入った様子だ。
日本の調味料を作るには酒が不可欠だが、佐藤氏によると、ミャンマーのお酒の法律をここ4年調べているが、どうなっているのかよく分からないという。ミャンマー市場の開拓も一筋縄ではいかないようだ。
■スーパーに「かつおだし」並ぶ
「かつおだし」を販売するかね七は、ミャンマー在住の日本人を含む高所得者層に狙いをつける。実はすでに、ミャンマー市場の開拓に乗り出している。
同社の舟渡(ふなわたし)悟常務は「ミャンマー向けには3年前から定期的なコンテナ輸出を始め、今では日本からの輸出額は年間1200万円に上る。地元のスーパーマーケットである「オレンジ」や「シティマート」にも2016年3月から、かつおだしなどの商品を出し始めた。規模は徐々に拡大させている。
かね七が成功の鍵と考えているのが「ブランド戦略」だ。「かね七がミャンマーの人から本当の意味での信頼を勝ち取るためには、明治13年(1880年)から受け継がれてきた品質や味を守らなければいけない」と舟渡氏は語る。
品質にこだわるぶん、かつおだしの価格は安くない。最も小さな100グラム入りのパックで2600チャット(約220円)、200グラムで3300チャット(約280円)、500グラムは8000チャット(約680円)、1キログラムだと1万4000 チャット(約1180円)にもなる。ヤンゴンの最低賃金は1日3600チャット(約300円)だから、200グラムのかつおだしとほぼ同額。日本の物価に置き換えれば、200グラムのかつおだしが7000円ぐらいの感覚になる高級品だ。
日本製を全面的にPRしたい思惑もあって、ヤンゴンのスーパーに置かれるかね七の商品は、ビルマ語のシールをパッケージの上から貼っている以外、日本で売られているものと同じだ。
ミャンマーで、かね七のかつおだしの販売を担うのは、地元企業のミルハ・マネジメント・サービス。同社のソウシュエ社長はかつて、東北大学の博士課程に留学していたが、そのとき、かつおだしと出合い、「感動した」。ミャンマーに帰国後、この味をミャンマー人にもそのまま体験してほしいと考え、そのまま販売することになった。
日本人が慣れ親しむしょうゆやソース、かつおだしの味はミャンマーで受け入れられるのか。庶民層と高所得者層という異なるアプローチを選択した2社の今後に、日本の味がミャンマー人の間に浸透するかどうかがかかっているといえそうだ。