ケニアの首都ナイロビにある世界最大のスラム、キベラ地区にほど近いランガタ刑務所(拘置所も併設)で8月31日、女性の囚人・拘留者たちが美を競うミスランガタ・コンテストが開かれた。優勝したのは、恋人を殺した罪で勾留中のルース・カマンダさん(22)。このミスコンは、囚人・勾留者と看守が一緒になって作り上げたもので、市民も見学できる。刑務所の中とは思えないほど大いに盛り上がった。
■「囚人は狂った人間ではない」
ランガタ刑務所には600人以上の女性の囚人・勾留者がいる。ミスコンに参加したのはこのうちの20人。刑務所内に作られた特設ランウェイを美女たちが優雅に歩くと、他の囚人・勾留者や看守、見学に来た一般市民から大きな歓声が上がった。
ミスランガタの王冠を勝ち取ったカマンダさんは「私たち囚人・勾留者は狂った人間ではない。ただ道を踏み外して間違ったことをしてしまっただけ。それぞれが素質や才能をもっているから、それを認めて勇気づけてくれるこんな機会(ミスコン)を、ぜひ日本を含め世界の囚人にも与えてほしい」とあいさつした。殺人罪で起訴され、拘置されているカマンダさんは2015年9月に、浮気をしたと疑った恋人の胸や腹、顔を刺し、殺したとされる。
ミスコンに参加した20人のほとんどはケニア人。だが、麻薬売買の罪で勾留中のインド人女性もひとりいた。いつも笑顔で人気者だとして、「ミス・ポピュラリティー」という特別賞を受賞した。彼女の受賞が発表されたとき、会場はどよめいた。
囚人の中では「ミス環境」に選ばれ、刑務所内に木を植えた女性もいた。
■囚人・看守・地域で盛り上げる
このミスコンでは、ミスを決めるだけではなく、さまざまな催し物があった。ケニアの伝統舞踊を囚人・勾留者たちが披露したり、地元団体「トランスフォーム・コミュニティーズ・イニシアティブ」と囚人・勾留者が一緒になってチャイやチャパティ、マンダジ(揚げパン)、サラダ、ピラフ、シチューを作り、無料で見学客に振る舞ったりした。
看守らもイベントの終盤にランウェイを歩いた。オリビア・オデー刑務官がランウェイでポーズを決めた瞬間、囚人・勾留者たちは飛び上がって声援を送った。
このミスコンは、囚人・勾留者、看守、地域住民が三位一体となって作り上げ、盛り上がるというユニークなものだ。
■開催費用は20万円
ミスランガタ・コンテストが開催されたのは1回目が2005年、2回目が2013年、今回が3回目だった。
ナイロビ郡にある9つの刑務所で、囚人の更生プログラムを担当するメアリー・カエンバ氏は「ミスコンは、囚人に自尊心を培ってもらうことを目的に開いている。特に女性は更生できる確率が高い。職業訓練や今回のようなイベントを通して、社会とつながりをもちながら、囚人は更生に努めてほしい」と話す。
今回のミスコン開催には約20万シリング(約20万円)の費用がかかった。費用の大半を地元団体からの寄付でまかなった。資金難からミスコンを毎年開くのは難しい。「ただ、囚人・勾留者はもちろん、市民や看守も楽しんでいるイベントなので、できれば毎年開催したい」とカエンバ氏は言う。
ケニアの刑務所はかつて、囚人はマットレスもない床に雑魚寝するなど、衛生環境は最悪だったという。ところが10年ほど前から、囚人の人権を尊重するよう政策が変わり、ベッドやテレビを置いたり、ミスコンを開催したり、と社会とつながる取り組みが始まった。ケニアの刑務所は今では囚人の自尊心を高め、社会に復帰できる足がかりを築いている。