ミャンマーのヤンゴン環状線は、単なる移動手段ではなく、庶民にとっての物流手段にもなっている。運賃が1周100チャット(約10円)という安さとも相まって、車内には、野菜やお菓子を田舎からヤンゴンのダウンタウンへ運搬する人も少なくない。この環状線は東京でいえば山手線のようなものだが、人だけでなくモノも一緒に運ばれているのが面白い。庶民の野菜が、庶民の足で運ばれ、庶民のための物流が環状線で成立している。
そんな環状線で運ばれるものの一つが「モリンガ」だ。モリンガは、スーパーフードとして注目される野菜。40歳のミャンマー人女性、ドーエーミントさんはこれを袋詰めにして環状線で運ぶ。ヤンゴン市の郊外から環状線に乗り、目的地は、ダウンタウンにある市場だ。大きな袋いっぱいのモリンガを全部売れば7000~8000チャット(700~800円)の収入になる。1束の値段は200チャット(約20円)。
モリンガは葉っぱ・花・種・茎・根っこ・サヤまでほとんどが食べられる。ミャンマーではモリンガのスープが主流だが、モリンガの果実(フルーツ)も食べられる。ヤンゴン大学の学生メイトゥーヒンさん(20)は「魚とモリンガフルーツの入ったカレーが好き」と話す。
モリンガは「奇跡の木」と呼ばれる。健康な生活に不可欠な90種類以上の栄養価と300種の薬効を含んでいるとされる。免疫力アップやアンチエイジング、リラックス効果、便秘解消、高血圧予防などの効能があるという。日本では沖縄や九州で栽培されている。
“庶民の野菜”である空芯菜も環状線でダウンタウンまで運ばれる。大きな袋いっぱいで1万2000チャット(約1200円)。1束で300チャット(約30円)。空芯菜の名前の由来は、茎の中が空洞になっていること。特に東南アジアで広く食べられる野菜で、くせがなくさまざまな料理に使え、茎のシャキシャキとした歯ごたえが特徴だ。栄養価が高く、糖尿病を予防する効果もあるという。
環状線の中では、野菜だけでなく、ミャンマーの伝統的なお菓子も運ばれる。その一つがダーグー。コメで作られたゼリーをベースに、中に小さなイモやニンジンが入っている。砂糖で味付けされていて甘い。削ったココナツを上にかけて食べる。ミャンマー人に人気で、1杯200チャット(約20円)と値段もお手ごろだ。
ヤンゴン環状線は全長45.9キロメートル。39の駅があり、1周するのに約3時間かかる。1877年にヤンゴンとダニンゴンの間で開通し、1954年に現在の形になった。