コンゴ民主共和国東部でレイプは「戦略的武器」、デニ・ムクウェゲ医師が訴え

講演を主催したのは笹川平和財団。東京・虎ノ門の笹川平和財団ビルでデニ・ムクウェゲ医師は「コンゴ民東部では女性が性暴力ならぬ性的テロリズムに脅かされている」と語気を強めた

紛争が続くコンゴ民主共和国(コンゴ民=旧ザイール)東部で性暴力被害者4万人以上を治療してきたデニ・ムクウェゲ医師(61)が初来日し、10月3日午後、「紛争下における性暴力と女性の権利擁護」をテーマに都内で講演した。ムクウェゲ医師は「コンゴ民東部ではレイプが最も安価で効果的な武器としてまん延している。この地域の紛争と性暴力に、国際社会はもっと関心をもつべき」と訴えた。

■「性的テロだ」

ムクウェゲ医師によると、コンゴ民東部では、乱立する武装勢力が村を破壊する戦略的武器として女性をレイプするという。「レイプは銃器などの伝統的な武器と違い、メンテナンスを必要としない。体一つで大きな傷を与えることができる。レイプはまさに安価で効果的な武器だ」とムクウェゲ医師は説明する。

レイプが村の経済活動に与える影響も深刻だ。「レイプによって被害女性は恥を与えられ、身体・精神的に大きな傷を受ける。出産ができなくなったり、出産の際に死亡したりする妊婦も少なくない」とムクウェゲ医師。「コンゴ民東部では女性が農業などで中心的役割を果たしており、村の弱体化は避けられない」と話す。

レイプが与える影響はこれだけではない。ムクウェゲ医師は「レイプは性病(HIV/AIDS)を伝染させ、世代を超えて爪痕を残す」と指摘する。また、レイプによって生まれた子どもは「ヘビの子ども」と呼ばれ、見捨てられる。こうした子どもは社会や親とのつながりを寸断されてしまうという。

ひどさに追い打ちをかけるのはレイプの方法だ。ムクウェゲ医師は「武装勢力は女性を人質として集め、夫や子どもの前でレイプする。銃器を女性器の中に入れて発砲するなど、その手口は非常に残忍だ。これはもはや性暴力ではなく、性的テロリズムだ」と怒りをあらわにする。

■レイプの背後にスマホ

ムクウェゲ医師はまた、「コンゴ民東部では『経済的理由』により紛争状態が続いている」と主張する。武装勢力は活動資金を確保するため、コンゴ民東部に埋蔵されている鉱物資源を狙って村を襲撃する。鉱物資源は住民の居住区にも埋まっているため、住民の排除は武装勢力の鉱山支配を容易にする。武装勢力は住民を強制的に移動させる目的で、女性をレイプするという。

性被害に遭った後、自分の村に戻って生活する女性は少なくない。村に戻っても仕事がなく、武装勢力が支配する鉱山で奴隷として強制労働に従事させられる被害女性も多い。ムクウェゲ医師は「女性が支える農業をレイプが破たんさせている。レイプ被害に再び遭う女性の割合は8.2%と高い。村に戻れなくなった被害女性は大都市に逃れ、村の人口は減少する一方だ」と厳しい現状を口にする。

コンゴ民東部は豊富な鉱物資源に恵まれている。「紛争鉱物」と呼ばれる金・銀・タングステン・タンタルが豊富に採れる。タンタルはスマートフォンやゲーム機のコンデンサー(蓄電器)に使われるものだ。コンゴ民には世界のタンタルの少なくとも6割が埋蔵されている。ムクウェゲ医師は「コンゴ民は鉱物資源の恩恵を享受できず、豊かさが不幸の原因となっている」とため息をつく。

政府の汚職もコンゴ民東部の発展を妨げる一因だ。世界の汚職を監視する英国のNGO「グローバル・ウィットネス」が2014年5月に発表した報告書は、「コンゴ民の国有採掘企業「ジェカミン」が大手多国籍採掘企業と2010~12年に交わした5つの取引で、コンゴ民政府は13億6000万ドル(現在のレートで約1400億円)を失った」と指摘している。この金額は同国の教育・医療の年間予算の約2倍に相当する。

■ノーベル平和賞の候補に

コンゴ民東部で凄惨なレイプ被害が後を絶たない一方で、日本を含む国際社会での認知は低い。この理由についてムクウェゲ医師は「コンゴ民東部のレイプ被害が「不都合な事実」として公にされないのは、複数の多国籍企業が紛争鉱物の違法取引にかかわっているからだ」と指摘する。実際、複数の中国企業が同地域での紛争鉱物の取引にかかわっていることが、国連安保理の調査で明らかになっている。

コンゴ民東部では1996年以降、女性の3人に2人がレイプの犠牲になったといわれる。ムクウェゲ医師は「コンゴ民東部の女性たちに振るわれた暴力が、あなたたちのポケットの中に入っていることを忘れないでほしい」と訴え、講演を締めくくった。

ムクウェゲ医師は1999年、コンゴ民東部のブカブ市にパンジ病院を設立。以降4万人以上の性暴力被害者の治療と心理ケアに尽力してきた。同時に、コンゴ民東部の女性の人権侵害を訴えるため、国連本部をはじめ世界各地で演説を繰り返してきた。その功績が認められ、これまで数多くの賞を受賞。2016年のノーベル平和賞受賞者の有力候補にも挙がっている。

1996年にコンゴ紛争が勃発してから、2016年で20年が経つ。日本では10月から、ムクウェゲ医師の活動を描いた映画「女を修理する男」(2015年、ベルギー製作)が神戸市外国語大学など全国の10大学で上映される予定だ。

ムクウェゲ医師による講演の様子。平日にもかかわらず、会場には多くの参加者が詰めかけた

ムクウェゲ医師による講演の様子。平日にもかかわらず、会場には多くの参加者が詰めかけた