日本赤十字社の山田圭吾医師は、ギリシャ・マケドニア間の国境に近い難民キャンプで暮らすシリア難民の健康状態について「メンタルの不調に起因する病気が増えている。一刻も早く改善する必要がある」と懸念を示した。山田氏は10月に、ギリシャのシリア人難民キャンプから帰国したばかり。欧州委員会によると、ギリシャ・マケドニア間の国境が2016年3月に閉鎖され、ギリシャに足止めされている難民認定者(多くはシリア人)は9月末で約3万人。このほとんどはドイツ行きを目指して入国した。
山田氏のシリア人の友人ワリッドさんは、国境付近にある3つの難民キャンプのうちのひとつで暮らす。16年初めまで、シリア反体制派が支配する北部のアレッポに住んでいた。大学生だったが、イスラム国(IS)から「兵士にならないか」と勧誘を受けた。
「断ると、アサド政権側の人間と見なされて殺される可能性がある。ワリッドさんはその日のうちにシリアを出て、ドイツへと向かった。家族もワリッドさんを追ってシリアから避難することを決めた」。山田氏はワリッドさんの当時の状況をこう説明する。
ところがワリッドさんがドイツへの経由地であるギリシャに滞在中、マケドニアとの国境が閉まった。「ドイツに渡る他の手段を探っているうちに、年齢制限にひっかかりドイツに入国できなくなった。ギリシャに残らざるを得なくなった」(山田氏)。母と妹は別ルートでドイツへ渡ったという。
ワリッドさんのようにギリシャで足止めを食う難民は大勢いる。だが山田氏は、ワリッドさんはラッキーなほうだと言う。「ワリッドさんはNGOで通訳の仕事に就き、給料をもらって生活できている。健康で、お金がたくさんある人のほとんどはすでに欧州に行った。生活力の弱い人ばかりがギリシャにとどまっている」と山田氏は話す。
難民キャンプでは、メンタルの不調を訴えるシリア難民が増えている。山田氏がキャンプに滞在した2カ月間、急患で運ばれてきた7人のうち6人が心因性の病気だった。
ドイツに向かうつもりでギリシャに入国し、足止めされた難民たちは失望している。「自殺を試みるシリア難民もいる。自殺を厳しく禁じるイスラム教の信者が自殺を選ぶぐらい彼らは追い詰められている。頭痛を訴えて診療所に来た患者に話を聞くと、死の危険を感じて逃げてきた背景や家族と離ればなれで暮らす苦しい胸の内を明かす人が少なくない」と山田氏はシリア難民の苦悩を訴える。