忘年会シーズンがやってきた。毎年この記事に食べ過ぎたお腹を眺め、「世界には飢餓で苦しむ人がたくさんいるのに‥‥」と罪悪感を抱いた経験はないだろうか。
余分な脂肪を燃やして自分も健康に、そして世界の飢餓も救う――。NPO法人メタボランティアは、チャリティウォーキングで参加者が消費した運動カロリー分を寄付金に換算し、途上国に食料支援する歩(ぽ)ランティアの活動を進めている。1キロメートルにつき1食分、10キロメートル歩くと10食分が寄付される仕組み。活動を始めてから2年で延べ1400人が参加し、1万3000食を途上国に届けた。
■10キロを2時間で
「少々の雨では、ウォーキングイベントは中止しない。できる限り全部一緒に歩いてもらいたい。飢餓や貧困に苦しむ国のことを考えれば少しの雨の中、10キロ程度歩くことなんて楽なもの」(メタボランティア代表の竹田周さん)
筆者が参加した11月2日、時折小雨も降る中、竹田さんの一言を受けて、御徒町駅前を夜7時にスタートした。参加者はリピーターを含め10人。上野公園や谷中銀座、湯島天神をめぐるルート、10キロメートルを約2時間で完歩するのが目標だ。なるべく全員フィニッシュできるよう、参加者の様子を見ながらルートを調整する。
初心者には、少々厳しい時間制限だけでなく、コースには平坦な道が少なく、アップダウンが多い。「より運動効果が得られるようにスピードやコースを設計している」(竹田さん)という。そこを時速5キロメートルというスロージョギングレベルの速さで歩いていく。参加者は次第に口数が少なくなり、黙々と歩く。
この日のリタイヤ者はゼロ。100人分の食料を寄付することができた。
■手軽に楽しく健康に
毎週水曜日の10キロメートルウォーキングでは、大通り沿いだけでなく、住宅地の民家の軒先や昭和のかおりのするレトロな商店街、公園などを通る。普段地下鉄を利用する身には、東京の知らない一面に出会ったようで、歩調もつい軽やかになる。
このNPOではこのほか月1~2回、特別ウォーキングも開く。前回はベルギー産ビールの日本初上陸プロモーションとコラボした。ゴール地点をバーとし、そこでビールが飲めるイベントにすることで、単に歩くだけではなく、参加者が手軽に、楽しく健康に感じられるように工夫している。
竹田さんによると、仲間や知人からの評判で参加する人が多い。「おそらく、どんな人も社会のために何かやりたいと思っているのに、行動に移すきっかけがあまりない。そんな人がきっかけとして、楽しみながら健康になれ、また社会貢献になれるメタボランティアを選択しているではないか」
メタボランティアが健康と途上国支援という、一見関係のない領域をつなぐ役割も担っているようだ。
全国にメタボランティアの活動を広めたいと青写真を描く竹田さん。だが知名度も低く、スタッフが少ないためにまだ実現できていない。このため今後、各地で活動を実施できるパートナーを集めたい考えだ。
■太りすぎ人口は19億人
「スポーツと社会貢献の両立にもともと興味があって、それで事業を起こしたかった」(竹田さん)
竹田さんは、2008年に起業した際にスポーツ関連メディアを立ち上げたが、同時にスポーツを通した社会貢献の必要性を感じて模索していた。そんな中、大阪大学医学部卒で医療とエンターテイメントの融合をめざす河野誠二理事と出会う。
河野理事から、先進国を中心に肥満の人が10億人おり、生活習慣病が蔓延する一方で、途上国では同じ数の10億人が正反対の飢餓で苦しんでいるという不均衡を教えてもらった。消費カロリーから寄付額を決めるコンセプトをスポーツに取り入れることで「肥満」と「飢餓」という2つの社会問題の啓蒙ができると考え、意気投合。メタボランティアを共同設立した。
国連の2016年のデータによると、飢餓人口は現在8億人と減少した。太りすぎ人口は、飢餓人口の約2倍の19億人(うち肥満人口は9億人に減少)に増えている。世界保健機関(WHO)によると、体重(キログラム)を身長の2乗(メートル)で割ったBMI値が大人で25以上だと太りすぎ、30以上になれば肥満と判断される。日本人はBMI25以上で肥満となる(日本肥満学会)。
竹田さんは「メタボランティアの活動が、医療費削減策としても注目される『健康寿命の延伸』に寄与できれば」と願う。