【ganas×SDGs市民社会ネットワーク②】「途上国の障がい者は支援から取り残されている」、アフリカ日本協議会の斉藤龍一郎理事に聞く

斉藤龍一郎氏。アフリカ日本協議会(AJF)理事として2000年からアフリカのエイズ問題に取り組む。1980年に障がい者解放運動に参加して以来、障がい者の権利向上にも取り組み、第6期障害学会理事も務める。

開発業界のキーパーソンへのインタビューを通じ、持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる17の目標の意義や取り組みを紹介していく連載「ganas×SDGs市民社会ネットワーク」の2回目。今回はNPO法人アフリカ日本協議会の斉藤龍一郎理事に、「目標3:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」(具体的なターゲットはこちら)について聞いた。斉藤氏は「途上国の障がい者は支援から取り残されている」と問題点を挙げる。

■交通事故は大きな社会問題

――アフリカに障がい者は多いのか。

「交通事故を原因とする障がい者が多い。世界保健機関(WHO)は報告書のなかで『多くの家庭が、長期治療や交通事故で障がいを負った家族のための支出や、また稼ぎ頭の喪失によって貧困に陥っている』と問題の深さを指摘している。

交通事故が障がいに直結する理由は大きく分けて3つある。『事故にあった後の医療サポートが不足している』『車に比べて危険なバイクタクシーが普及している』『交通ルールが守られていない』だ」

――医療サポートの不足は深刻なのか。

「日本のNGOヒューマンケア協会(東京・八王子)は南アフリカで障がい者の自立支援をしていたが、支援を受ける障がい者が来日した際、その多くは『交通事故が原因で障がい者になった』と語っていた。日本だと治るけがも、アフリカでは、事故の後のケアがないため、障がいにつながってしまう。

フランス国立保健医療研究機構の研究者、エマニュエル・ラガルデがガーナの農村で調査したところ、けが人のほとんどはトラウマケアの訓練を受けていない医者のいる病院に搬送されていることが分かった。また都市でも、病院や器具、訓練された人材の不足から、けが人の死亡率は高い」

■障がい者の中にも“身分制度”

――途上国、特にアフリカでは紛争による障がい者も存在するのでは。

「紛争に負けた側の障がい者が、表に出てこないのが問題だ。1994年に虐殺・紛争が起きたルワンダでは、障がい者が『勝った側(ツチをはじめとするルワンダ愛国戦線)』『生まれつき』『負けた側(フツを中心とする旧政府)』の3つに区別された。

ルワンダ愛国戦線の軍人だった障がい者は勝った側としてリハビリや年金を受けられた。生まれつきの障がい者は、けがをしたルワンダ愛国戦線の軍人のケアが優先されたため、十分な支援を受けられなかった。旧政府の軍人に至っては、内戦が原因で障がい者となったことが世間に知れると、自分が負けた側であることも同時に知られてしまう。ケアされないどころか、障がいを隠さなければ危ないと感じていた。

ソマリアやコンゴ民主共和国は、軍籍簿で軍人を管理していない。このため戦傷を負った軍人が補償を受けることはない。ルワンダよりも悲惨だ」

――途上国で障がい者問題に取り組むうえでのハードルは。

「障がい者が声をあげにくい環境が、ロールモデルの不足を引き起こしている。日本では生活保護があり、最低限の生活が保障されている。だがアフリカではサポートが不十分で、障がい者は自分の生活で手一杯。障がい者の権利向上のために活動に参加する余裕はない。NGOスーダン障害者教育支援の会(茨城・つくば)の理事長で、祖国スーダンの和平実現のためにも活動するモハメド・オマル・アブディン氏のような障がい者がもっと出てきてほしい」

■バリアフリーは一石二鳥

――どんな支援策が障がい者にとって効果的か。

「有効な方策が何かははっきりしていないし、その調査も進んでいない。アフリカでは、自分が障がい者だということを表に出して検査を受けても、どんな支援が自分に返ってくるかわからない。だから障がい者は検査を受けず、実態がつかめないから、調査もなかなか進まない」

――SDGsで障がい者問題に取り組む意義は。

「『誰一人取り残さない』『持続可能性』という面で、障がい者問題に取り組むことはSDGsにとって重要だ。誰一人取り残さないことはSDGsのキーワードになっているが、途上国の障がい者は支援から取り残されている。アフリカの障がい者問題を研究する教授は日本に10人ぐらいしかいないため、支援する以前に調査の段階で、障がい者問題にはハードルが残る。

持続可能性は、まちづくりの初期からバリアフリーを取り入れることで、コストを抑えられる。土地開発が終わった後に、もう一度バリアフリー仕様にまちを作り変えるのでは二度手間だ。

バリアフリーは障がい者だけではなく、高齢者にも役立つ。高齢者の割合がすでに上昇しているアフリカでバリアフリーに取り組むことは重要だ。レユニオン、セイシェル、モーリシャスなど、インド洋に点在する島国の出生児平均寿命は70代の半ばから後半に達するなど、高齢化が進む。開発の真っただ中にあるアフリカで今こそ障がい者問題に目を向け、取り組まなければいけない」

 

 

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SDGs市民社会ネットワークとは
(この連載は、ganasとSDGs市民社会ネットワークのコラボレーション企画です)
「SDGs 市民社会ネットワーク」は、2015年9月に国連総会で採択された、17の地球規模課題をまとめた「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals: SDGs)の達成をめざして行動するNGO/NPOなど市⺠社会のネットワークとして2016年4月に発足しました。「誰も取り残さない」かたちで貧困や格差をなくし、持続可能な 世界の実現をめざすというSDGsが掲げる各課題について、日本の NGO/NPO の幅広い連携・協力を促進し、民間企業、地方自治体、労働組合、専門家・有識者などとの連携も進めていきます。SDGs市民社会ネットワーク HP:http://www.sdgscampaign.net