国連開発計画(UNDP)のヘレン・クラーク総裁は12月15日、極度の貧困や不平等のない世界を目指して、国連加盟国が2015年に採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」の課題と展望について関西学院大学で講演した。SGDs達成のカギとして「資金」「包括性」「気候変動」の3つを挙げ、それぞれが抱える問題の解決策を示唆した。
SDGs達成の1番目のポイントとしてクラーク総裁が挙げたのが資金だ。「お金が全てではない。だがあれば助かる」。クラーク総裁によると、2030年までに全ての途上国でSDGsを達成するには年間3兆3000億~4兆5000億ドル(390兆~530兆円)の投資が必要。だが実際に動員される資金はその数百分の1の135億ドル(約1兆6000億円)にとどまっている。クラーク総裁は「各国政府だけが資金を拠出するのではなく、民間部門や慈善活動などあらゆる方面から資金を出してもらうことが欠かせない」と語る。
2番目のポイントは包括性だ。クラーク総裁は、発展から誰も取り残すことのない「包括的な社会づくり」の大切さを繰り返し強調した。 誰かが発展に取り残されていては、持続可能な開発とはいえないからだ。
ところが現実は多くの人たちが発展の恩恵から除外されている。その一例が女性や若者だ。「女性の地位は高まってきたとの声もある。だがいまの速度で進んでも、男女が平等な社会になるにはあと170年かかるといわれる」とクラーク総裁は厳しい現状を語る。
世界人口の3人に1人を占める30歳以下の若者を開発に取り込むことも必要不可欠。「社会で活躍できる機会を若者に与えられよう、世界はもっと投資すべきだ」と総裁は主張する。
3番目のポイントは気候変動対策。「気候変動は、貧困で苦しむ人をさらなる貧困に追い込む」(クラーク総裁)からだ。
2020年以降の地球温暖化対策「パリ協定」が2016年11月4日に発効したことについてクラーク総裁は「内容が不十分だ。地球の温度は、産業革命以前と比べて最悪3.5度上昇するとの観測がある。2度の気温上昇で地球にハルマゲドン(世界の終焉)が訪れるといわれる」と危機感を抱く。国連が推奨するグリーンジョブ(環境負荷を減らし、しかも事業として採算がとれる雇用)をはじめ、環境に優しい経済活動をよりいっそう推進していく必要性があると述べた。
クラーク総裁は最後に「格差や気候変動など、私たちの前には問題が山積み。だがSDGsという優秀な目標がある。実行に移すのみだ」と述べ、講演を締めくくった。
クラーク総裁は2009年、女性として初めてUNDPの総裁に就任した。1999~2008年はニュージーランドの首相を務めた。フォーブスの「世界で最もパワフルな女性100人」にも選ばれている。