「国際協力は学ぶだけではダメ。実践したい」。こう意気込むのは、世界の災害・貧困地域で医療支援を手掛けてきた日本のNGO「Future Code(フューチャーコード)」(兵庫・神戸)の学生部「BYCS(バイクス)」の早川航洋代表(22)だ。バイクスは、2016年10月のハリケーンで倒壊したハイチの病院を再建するため、2月19日までクラウドファンディング(不特定多数の人からインターネットで資金を集める手法)に挑戦中だ。
■見よ!これが学生の底力だ!
バイクスは2016年10月、フューチャーコードの代表を務める大類隼人医師(35)が呼びかけ、神戸市外国語大学を中心に集まった学生5人で発足した。「若者が国際協力に挑戦し、途上国との架け橋となって人々に笑顔を届けよう」と、団体名は英単語の「Bridge」「Youth」「Challenge」「Smile」の頭文字から取った。
早川さんによると、バイクスは単なる学生団体ではない。「バイクスは他の学生団体とは違い、途上国での支援実績が豊富なフューチャーコードが母体だ。自分たちの行動に対する強い責任感は、他の学生団体では得られない」(早川さん)。「NGOに近い環境でリーダーシップを発揮し、学生の底力を社会に見せつけてほしい」という大類氏の思いから、学生主体で団体を動かしているという。
バイクスは発足以来、学生だけでミーティングの日程を調整し、どんな活動をどう進めるのかといったことを議論してきた。フューチャーコードの職員と共に支援内容を話し合うことは稀だ。
2016年11月からバイクスに参加する神戸市外国語大学3年生の壁下真央さん(21)は「バイクスはフューチャーコードとの距離が近い。ハイチの現状は大類さんから聞ける。具体的な支援地域の様子を学びながら、踏み込んだ議論ができる」とNGOの学生部ならではの強みを強調する。
■食料支援は数千万円かかる!?
バイクスが現在取り組むのは、クラウドファンディングサイト「キャンプファイヤー」による資金集めだ。フューチャーコードが住民を対象に結核検診などをしてきたハイチでは2016年10月、大型ハリケーン「マシュー」が直撃し、1000人以上の犠牲者を出した。同国南部の沿岸部では家屋の9割が破壊された。
バイクスは当初、同国の孤児院に対して食料を送る予定だった。だが被災直後のハイチで活動していた大類氏の報告で、治安の悪化で食料が奪われる危険があると知った。「食料を届けるには数千万円以上が必要で、持続可能な支援ではない」と早川さんは考えた。代わりに目を付けたのが、同国南西部にあるマフラン町の病院の再建だった。
マフラン町では町唯一の病院が倒壊。3万人以上の住民が医療サービスにアクセスできないのが現状だ。衛生環境が悪いため、コレラの感染拡大も懸念される。早川さんは「ハイチ政府は予算に乏しい。病院の再建は困難だ。でも医師や看護師はいつでも勤務可能な状態。建物さえ作り直せば、住民は適切な治療を再び受けられるようになる」と期待を込める。病院の再建に必要な70万円を目標に寄付を呼び掛けている。
■バイトすればいいだろ
ただ活動は順風満帆ではない。バイクスが1月18、20日に神戸市外国語大学で学生向けに開いた活動説明会では、参加した学生から「募金を集めるよりも自分たちでバイトをして資金を集めればいいのではないか」「そもそも途上国に対する支援は必要なのか」など、途上国支援の意義に懐疑的な意見が多く出た。
早川さんは「国際協力への関心が強い学生はいるけれど、行動する人は少ない。いざ行動しようとしても、座学の知識だけでは支援が集まらないと痛感した。自分たちの思いを伝える難しさを知った」と唇を噛みしめる。
壁下さんは「バイクスにはハイチに行ったことがあるメンバーがいない。話にどう説得力を持たせるか工夫しないと。自分たちの気持ちを伝え、少しずつ共感する人を増やしていきたい」と前向きな姿勢を示す。
バイクスは今後、途上国支援を実践してみたい学生を中心にメンバーを増やしていく予定だ。早川さんは「途上国の問題の多くは先進国の搾取が原因。私たち日本人には解決する義務がある。バイクスの取り組みをより多くの学生に知ってもらい、無関心をなくしたい」と抱負を語る。
フューチャーコードは2010年、ハイチ地震で30万人以上の死者を出したことを受け、同国で医療支援を開始。「現地主導の持続可能な支援」をモットーに、バングラデシュや西アフリカのブルキナファソでも看護師育成やマラリア予防などに力を注ぐ。