グラミン銀行創設者で、ノーベル平和賞を2006年に受賞したムハマド・ユヌス氏は2月21日、都内で開かれたシンポジウム「ソーシャル・ビジネスで未来をつくろう」(主催:朝日新聞社、九州大学)で基調講演し、「貧困はお金を与えれば解決するものではない。問題を見える化するには、人(貧しい人)と接することが大切だ」と述べた。ユヌス氏といえば、貧困層に対してマイクロクレジット(無担保での少額融資)を供与するグラミン銀行が有名だが、これ以外にも、夜盲症の予防や保険制度の確立などをソーシャル・ビジネスとして手掛けてきた実績をもつ。
ユヌス氏の母国バングラデシュには夜盲症で目が見えない子どもが多い。その原因はビタミンAの不足だ。貧しいため栄養を十分にとれない。そこでユヌス氏はこの課題を解決しようとソーシャル・ビジネスを始めた。
ユヌス氏が考えたのは、野菜の種を1袋1セント(約1円)と誰でも買える値段で販売すること。貧困層自身に野菜を育てさせ、ビタミンAをとってもらうのが肝だ。お金や野菜を与えるのとは違い、種にすることで貧困層は農業を始められる。種も自分で得られるようになる。
「野菜を作り、ビタミンAをとることが貧困層にとって持続可能になる。夜盲症を防ぐことにもつながる」とユヌス氏は語る。
このスキームは、実は支援する側にとっても持続可能だ。種を売って利益を得られるからだ。
ユヌス氏はまた、田舎の貧困地域に住む人が抱える医療の課題についても言及した。保険制度や近所に診療所がないため、医者に診てもらえない人が少なくない現実がある。そうした貧困層を対象に、ユヌス氏は、年間4ドル(約450円)で家族全員が保険に入れるサービスを考案した。保険料として得たお金で病院を建設し、医者や看護師を呼ぶようだ。
だが医者不足という課題もある。ユヌス氏は、医大を作って医者の数を増やすとの青写真を描く。養成した医者を田舎の貧困地域に送り込み、医療を届けたいと話す。