「持続可能な開発目標(SDGs)」を掘り下げる連載「ganas×SDGs市民社会ネットワーク」の7回目は、前回に続き、「目標4:質の高い教育をみんなに」(具体的なターゲットはこちら)を取り上げる。子ども支援を専門とする国際NGOセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの堀江由美子アドボカシー・マネージャーは「紛争や災害の影響を受けた子どもの教育が、緊急事態への支援の中でも特に深刻な問題」と教育の大切さを主張する。
■中央アフリカでは小学校の3分の1が破壊
――教育への支援が最も不十分なのはどんな状況の子どもたちか。
「紛争や災害の影響を受ける子どもたちが、教育の機会を得られずに苦しんでいる。紛争・災害下の18歳未満の子どもの数は推定約5億3500万人。その多くが教育を受けていない。深刻なのがサブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカだ。約3億9300万人の子どもが、紛争や災害といった緊急事態が起きているところに住む。
とりわけ紛争は、子どもたちの教育へのアクセスを阻害する。50年以上も内戦が続く中央アフリカ共和国では、攻撃の拠点を獲得するために、武装勢力がひんぱんに学校を攻撃する。全国にある2179の小学校の3分の1が破壊され、8%が軍の拠点として使われる。
同じく内戦が泥沼化する南スーダンでは、紛争地の学校の3分の1が機能していない。本来なら小学生の年齢にあたる子どもの約60%が学校に通えていない」
――紛争はどんな影響を子どもに及ぼすか。
「学校に通えないことで、子どもたちの勉強時間は家事や畑など家の手伝いや、より劣悪な環境での長時間労働、または徴兵されて兵士になることにとって代わることも。通学途中や学校で武装勢力に襲われるリスクを考えると、特に女子を学校へ通わせたくないと考える親は多い」
――紛争が続く中で、親や子どもはそもそも教育の大切さを理解しているのか。
「親、子ともに教育の大切さは理解しているようだ。セーブ・ザ・チルドレンが実施した調査によると、紛争や災害の影響を受ける世界17カ国に住む9000人の子どもの99%が『教育は重要だ』と答えた。教育を受ける年数が1年伸びるごとに所得が10%増えるとのデータもある。子どもの未来に教育が大切なのは明らかだ」
■難民・国内避難民の子どもの半分が通学せず
――海外に逃れる難民、国内避難民に対する教育はどんな状況なのか。
「避難先でも難民の子どもたちは教育を受けられないのが現状。世界では紛争などで6530万人が避難を余儀なくされていて、その約半数は子どもだ。そうした子どもの約半数は教育を受けていない。中学・高校に通えている子どもはたったの25%だ」
――避難先でも子どもたちが教育を受けられない原因は。
「受け入れ国の体制の不備や、資金の不足という問題がある。受け入れ体制でいえば、状況によって学校を2部制にして午前の部、午後の部に分けて授業をすることや、難民の子どもと受け入れ側のコミュニティの子どもたちが交流する場をつくるなど、難民の子どもが教育を受けやすい環境を整えることが大切だ。とはいえ、2部制は授業時間が短くなるといった弊害もある。子どもの受け入れ数を増やす対策と同時に、教育の質の確保も課題だ。
難民の子どもの中には、保護者がいないケースも多い。2015年には約10万人の難民・移民の子どもが大人の同伴なしでヨーロッパに渡った。こうした子どもはとりわけ脆弱で、暴力や搾取からの保護と教育機会の提供が不可欠だ。
資金不足も深刻だ。緊急人道支援の中で教育への予算はわずか2%にすぎない。緊急事態が起きると、食料など生命の維持にかかわる支援がどうしても優先されがち。だが緊急人道支援の総額を増やし、それに伴って教育への支援を拡充・加速させること、また紛争・災害の影響を受けている国はもちろん、難民を受け入れている途上国への支援は欠かせない」
――難民の教育問題に世界はどう向き合うべきか。
「まずは難民の子どもの家庭状況や就学状況などのデータを収集し、実態を詳しく調べる必要がある。データがなければ、障害のある子どもの状況や、格差がどこに存在するかをあぶりだせない。難民の教育問題に集中して取り組まなければ、目標4を含むSDGsの達成はあり得ない。
日本政府は2016年12月にSDGsの実施指針を発表したが、紛争や災害などの影響を受けるなど、脆弱な立場に置かれた人たちへの支援については書かれていない。日本政府は、他国の紛争・災害の影響を受けている子どもへの支援とともに、国内の災害で被災した子どもへの支援も促進しなければいけない」
――地震大国・日本の緊急事態での子どもへの支援はどうか。
「地震などの災害が起きると、子どもは日常性を失い、いつも以上にストレスがかかるため、心理社会的なケアが重要だ。親も家や生活の再建などで大きなストレスを受ける。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、東日本大震災や熊本地震での災害直後に被災地で『こどもひろば』を開設した。学校が再開するまでの間、安心して子ども同士がかかわり、子どもらしくいられる時間を取り戻せることができる場を提供し、被災した子どもに寄り添った」