サム・ラーさん(50)は、シェムリアップにある養鶏場「プノンデイ・K.J・ライブストックトレーニングセンター」で働くシングルマザーだ。彼女は2007年に夫と離婚してから、他人の家での家事労働(主に掃除)とごみ山でのウェイストピッカーの2つの仕事を掛け持ちし、2人の子どもを育ててきた。生活はまだ苦しいが、2013年に養鶏場へ就職したことをきっかけに彼女は人生に新たな希望を見出した。
ラーさんにとって苦境が訪れたのは10年前だった。当時7歳と5歳の子どもがいたラーさんだったが、ヘロインや酒に明け暮れ、別に女をつくっていた当時の夫に嫌気がさして離婚した。2人の子どもを抱えて女手一つで暮らしていくために、月30ドル(約3600円)の掃除の仕事に加えて、ごみ山でごみを拾って売るようになった。ごみ山での稼ぎは1日1ドル(約120円)ほどの足しにしかならなかった。
そんなラーさんに転機が訪れたのは、シンガポールに本部を置くNGOダナアジアが運営する養鶏場「プノンデイ・K.J・ライブストックトレーニングセンター」の募集を聞いた2013年だ。彼女は現在、養鶏場で掃除とニワトリに薬を注射する仕事をしている。読み書きができないため、耳で聞いて仕事を覚えた。
月収は120ドル(約1万4400円)と、養鶏場で働く前の仕事(家事労働)と比べて4倍になったが、生活に十分な余裕はない。そのため、17歳になった子どもはシェムリアップの工場で働き、ラーさんと同じ120ドルの収入を得ているが、15歳の子どもはいまだにごみ山でごみを拾って生計の足しにしている。
苦しい家計状況で、ラーさんは「子どもを学校に行かせることができなかった」と悔やむ。「私はこれからも養鶏場で働き続けたい。いつかは自宅でもニワトリを育てられるようになって、収入を増やしたい」と希望を語る。