ロンジーはなくなるのか? ヤンゴン・レーダン地区で61人に聞いてみた

ヤンゴン・レーダンで仕立て屋を営むスーモンウィンオーさん。棚には仕立てに使うたくさんの布がある(中里駿之介撮影)

ロンジーがなくなるときはミャンマーがなくなるときよ――。ミャンマー人はロンジーに対して特別なこだわりをもつ。ヤンゴンの学生街レーダン地区の仕立て屋17軒を取材したところ、西洋化の波が訪れているにもかかわらず、4分の3以上の13軒は「客は年々増えている」と答えた。しかしその一方で、同地区にある“ヤンゴンの原宿”ウートゥンリンチャン通りではズボンやスカートをはく若い女性の女性が目立つ。レーダン地区で話を聞いた61人の証言をもとに考察する。

「ロンジーは減らないわ。お客さんの数は増えているし。ミャンマー人は結婚式、卒業式、お祭りにはロンジーをはいて参加するの」。こう語るのは、レーダンマーケットで仕立て屋を営むスーモンウィンオーさん(39歳)だ。

ミャンマーには公式には135の民族がある。それぞれに伝統的な模様があり、ロンジーはまさに多民族国家ミャンマーの象徴だ。

「ロンジーには多文化を吸収する力がある」(ヤンゴン在住の大学生キンミョータンさん、20歳)。スーさんは「私の店で作るロンジーも、中国、インドなど外国のデザインや流行を毎年採り入れている。革新的でしょ?」と自信満々に話す。

レーダン地区の仕立て屋の客層は、若者が集まるエリアにもかかわらず22~60歳だ。ミャンマーの大学ではロンジーの着用が義務付けられているが、お金がない大学生は仕立て屋を使わないケースがほとんど。スーパーなどで売られる安い既製品を買うという。

仕立て屋がこぞって「ロンジーはなくならない。売れ続ける」と強調するのとは裏腹に、ウートゥンリンチャン通りを歩く若い女性のおよそ4割はズボンやスカートをはいている感じだ。

ロンジーのファッション性に疑問をもつ若い女性も実際にいる。ズボン姿の27歳の女性は「ロンジーよりもズボンのほうがスタイリッシュで見た目が良いでしょ」、スカートを着こなしていた20代の女性は「(スカートのほうがロンジーより)おしゃれに感じる」とそれぞれ話す。

キンミョータンさんは「映画スターはズボンやスカートを着ている。ミャンマー人も真似したくなる。普段はロンジーを着るけれど映画を見に行くときや、2万チャット(約2000円)くらいの寿司やピザを友だちと食べに行くときは周りの目が気になるからロンジーは着ない」と乙女心を打ち明ける。

ファッションではなく、動きやすさからズボンやスカートを選ぶ人もいる。ヤンゴン大学に通うキンミョータンさん(20)は「ズボンのほうが歩きやすい」と言う。別の若い女性は「ヤンゴンのバスはものすごく混んでいる。本当はロンジーを着たいけれど、バスに乗る際、何かに引っかかりそうで心配」と嘆く。

ミャンマー人のアイデンティティであるロンジーは10年後、20年後、日本の着物やインドのサリー、ベトナムのアオザイのように着る人が減っていくのか。仕立て屋のスーさんは「大学生も就職すれば、自分好みのロンジーが欲しくなる。仕立て屋に絶対に作りに来るはず。ロンジーはこれからもミャンマー人に着られていくわ」と太鼓判を押す。

ロンジーの未来は、西洋化の影響を受け始めた世代(大学生)の選択にかかっている。留学、仕事、旅行で海外に出かけ、外国と接触する機会がもっと増えたとき、ロンジーに対するこだわりをミャンマー人はもち続けているのだろうか。(中里駿之介、佐藤龍)

ウートゥンリンチャン通りを歩いていたスカート姿・パンツ姿の女性。背後に見える女性は会社の制服のロンジーを着ている(中里駿之介撮影)

ウートゥンリンチャン通りを歩いていたスカート姿・パンツ姿の女性。背後に見える女性は会社の制服のロンジーを着ている(中里駿之介撮影)