ミャンマーにも「おふくろの味」があった! 隠し味は家族との思い出

おふくろの味について懐かしそうに語るホテル従業員のタントンゾウさん(ミャンマー・ヤンゴン)

ミャンマーにも「おふくろの味」はある。ヤンゴン在住の複数のミャンマー人に聞いたところ、モヒンガー(ナマズで出汁をとったスープにライスヌードルを入れた国民食)やカレーといった伝統的な料理をおふくろの味と答える人が多かった。ユニークだったのは、味そのものではなく、そこに「家族との思い出」が詰まっていたことだ。

「おふくろの味はモヒンガー」。こう言い切るのは、ホテル従業員のタントンゾウさん(46歳男性)だ。タンさんの出身地は、エーヤワディ管区にある小さなカティヤ村(当時は200世帯)。現在はヤンゴンからバスに乗って2時間で行けるが、かつては船で片道4時間かかった。

「米作の村だったけど、家族は仕事が忙しくて、ライスヌードルを作る時間はなかった。ライスヌードルを手に入れるのは至難の業だった。船乗りの父が週に1回ヤンゴンでライスヌードルを買ってきてくれた。母は、ショウガやタマネギ、トウガラシ、ゴマなどの具がたくさん入ったモヒンガーのスープを作ってくれた。(父と母のコラボレーションによるモヒンガーは)おいしかった」。親せきが集まって食べたこともあるという。

彼が8歳のとき、母は死んだ。出産の際に心臓発作に襲われたのだという。「いまでもモヒンガーは週に4回、屋台で食べる。そのたびに母を思い出す」

「母が作るマトンカレーは臭みがなく、おいしかった。好きだった」。そう語ったのは、会社員のマゥンマゥンミェさん(31歳男性)。彼のおふくろの味はマトンカレーだ。ヤンゴンで両親と一緒に暮らす。親せきが休暇や通院で地方からヤンゴンに来るときには彼の家に滞在する。母は決まってマトンカレーをふるまった。「母が作るマトンカレーはおいしいから、それを親せきは持ち帰るんだ」と自慢げに話す。

ホテルオーナーのティンアゥンウィンさん(55歳男性)のおふくろの味はバゾンジャウン・ガピジョ(エビと魚の発酵食品で作る伝統料理)とチェンバンイュエ・チンヒン(ミャンマーの伝統的なスープ)。味の決め手はガピ(魚の発酵食品)。ガピィが入ってなければミャンマー料理ではないとティンさんは断言する。「バゾンジャウン・ガピジョとチェンバンイュエ・チンヒンはお母さんがいつも作ってくれたし、料理している時から良いにおいがする。お腹が減っちゃうんだよ。ミャンマー人はみんな好き」

ミャンマー人は伝統的に料理を手で食べる。ガピは食べた後、石けんで洗ってもにおいがとれなくて大変だという。「人前ではしないけど、ミャンマー人はみんな、手についたガピのにおいを嗅ぐんだよ。これが良いにおいでお腹がすくんだ。仕事に行くときは、生米の中に手を突っ込む。すると米粉が手についてにおいが消える」と思い出を語るティンさんはおふくろの味が恋しそうだった。

ホテル勤務のノーティティトゥーさん(26歳女性)にとってのおふくろの味はフィッシュカレーだ。「お母さんは週2回、フィッシュカレーを作ってくれる」と話す。特徴はモリンガの木の実が入っていること。家のすぐ近くにモリンガの木が生えていて、家族総出で、カレーに入れるためにモリンガの実を採ったことも思い出だ。「私も料理はする。けれど母が作るようなおいしいフィッシュカレーはできない。母はもう亡くなった。モリンガの木を見るたびに母の料理が食べたくなるわ」と寂しげに語る。

7%台の経済成長を誇るミャンマー。ダウンタウンにはショッピングモールが続々と誕生し、インドや中国、インドネシア、イタリアなど外国の料理を出すレストランも多い。3月22日には日本食専門のフードコートもオープンした。食の多様性が増す中で今後のミャンマーのおふくろの味はどう変化していくのだろうか。

ヤンゴンのナイトマーケットで出されたモヒンガー。値段は500チャット(約50円)。朝食に食べるのがミャンマー流だ

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