「カンボーザ銀行でファイナンスの仕事をしたい」、AAR Japanの職業訓練校に通うミャンマー人障がい者

「(AAR Japanが運営する障がい者のための職業訓練校)に入って、明確なゴールをもって生きる大切さに気付いた」と話すスーモンウィンさん(ミャンマー・ヤンゴン)

「障がいは前世での行いが悪かった報い」。そんな“偏見”も残るミャンマー。片足に軽度の障がいを抱えるスーモンウィンさん(22)は、通信制のモンユワ大学で経営を学びながら、日本のNGO AAR Japan(難民を助ける会)がヤンゴンで運営する障がい者のための職業訓練校に通う。ダブルスクールをこなすタフな女性だ。「障がい者への差別が少ない最大手カンボーザ銀行でファイナンスの仕事をしたい」と夢を語る。

AAR Japanの職業訓練校にスーさんが入学したのは2017年1月。理容美容、洋裁、PCの3つのコース(期間はいずれも3カ月半)のうち、選んだのはPCコース。これまでの3カ月、コンピューターの基礎(マイクロソフト系のソフトからアドビのフォトショップ、ページメーカーなど)からファイナンスの仕事に必要なエクセルの使い方までを学んできた。4月に修了し、カンボーザ銀行に履歴書を送るつもりだ。

この職業訓練校は全寮制。寮生活では、自分のことは自分でやらなければいけないため時間の管理の仕方や、同じ境遇の生徒たちと朝から晩まで一緒に過ごすことでチームワークのスキルを培う。これは、健常者が通う学校では得られなかったことだ。

「お互いの悪いところを指摘しあうのがルール。だからこそ、過去の辛い話から将来の夢までなんでも互いに話せるの。今まで得られなかった知識や考えを手に入れられてとても楽しい。困難を分かちあえる仲間が近くにいることは安心感につながる」と彼女は語る。

ミャンマーでは障がい者の就職は厳しい。ミャンマー政府の調査によると、ミャンマーの障がい者の失業率は85%以上(2010年)。この状況を打破するため、AARは2000年に、障がい者職業訓練校をヤンゴンにオープンした。ミャンマーには障がい者にスキルトレーニングを積ませる学校は都市部に数校あるが、就労支援も提供するのはAARの職業訓練校しかない。

これまでの卒業生は1500人以上。就職率は2015年に限ると84%と抜群の高さを誇る。PCコースは81%(理容美容94%、洋裁76%)。一般企業に勤めるほか、地方で自分の店を開く人もいる。

2015年に発表された国勢調査によれば、ミャンマーには国民の4.6%、実数にして約231万人の障がい者がいる。「障がい者をもつ家庭は貧しいことが多い。障がい者を支えるために治療費や介助に時間がかかるからだ。他の費用、時間を削るため、障がい者は学校を中退せざるをえないケースが少なくない」(AAR Japanヤンゴン事務所の中川善雄氏)

障がい者に対する差別が残っているのがミャンマーの現実。スーさんのように大学まで進学するケースは稀。障がいを抱える若者の多くが学校に通えず、夢をあきらめてしまう。スーさんは「障がい者と健常者がともに学べる学校が将来、ミャンマー中にできてほしい。誰もが自分の夢を追いかけられる社会にいつかなってほしいわ」と思いを膨らませる。

AAR Japanがヤンゴンで運営する障がい者のための職業訓練校の正門。中に入ると広々とした教室がある

AAR Japanがヤンゴンで運営する障がい者のための職業訓練校の正門。中に入ると広々とした教室がある