ルワンダ大虐殺の加害者は「フツ」と言い切っていいのか? 英国NGOの“謎の報告書”が偏見生んだ

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の元職員で、アフリカの民族対立に詳しい米川正子氏は4月26日、ピースボートが都内で主催したイベント「あなたは『難民』を知っていますか?」で、1994年4~6月に起きたルワンダ大虐殺の裏事情について講演した。「多数派民族フツ=虐殺の加害者」のレッテルが貼られた要因のひとつとして、英国の人権団体「アフリカンライツ」が出した“謎の報告書”の存在を明らかにした。

ルワンダ大虐殺の加害者として国際社会に認識されるのは、ルワンダの人口の85%を占める民族フツだ。一方的に殺された被害者はツチ(同14%)。今でもフツの難民は避難先の国で「自分はフツだ」と身元を明かした途端、「虐殺にかかわっていた人間だ」と白い目で見られるという。

加害者・被害者を出自で決めつける論調に異を唱えるのが、ルワンダやコンゴ民主共和国など、紛争が絶えないアフリカ大湖(ビクトリア湖やタンガニーカ湖などが点在する)地域にUNHCR職員として10年勤めた経験をもつ米川氏だ。「ツチも、フツに対して同じ罪を犯した事実はある」と指摘する。

「フツ=加害者」と極端な図式はなぜ、国際社会に広まったのか。米川氏によると、英国人2人が共同代表として92年に立ち上げたNGO「アフリカンライツ」が出した報告書の存在が大きく影響しているという。

アフリカンライツは94年9月に突如、ルワンダ大虐殺をまとめた報告書を発表した。750ページの大作だ。ルワンダ大虐殺が終わったのが94年6月だから、わずか3カ月で報告書を仕上げたことになる。しかもアフリカンライツの2人はルワンダの専門家でもないといわれる。

「ルワンダの母国語キニャルワンダ語を話す外国人はほとんどいない。どんな身元の通訳を使い、どんな形式でインタビューし、そもそも誰にインタビューしたのか。さまざまな観点からこのNGOは疑われていた。最近発表された論文で、アフリカンライツは、ウガンダに逃れたツチ難民が設立した当時の反政府勢力(ルワンダ愛国戦線=RPF。現在はポール・カガメ大統領率いる最大与党)と関係があったのではないか、と疑われている」(米川氏)

アフリカンライツは95年8月にも、第二版として「ルワンダ:死、絶望、そして抵抗」と題するおよそ1200ページの本を出版した。

米川氏によれば、アフリカンライツは「ツチがフツに虐殺されたこと」を報告書に詳述することでRPFからおよそ10万ドル(現在のレートでおよそ1134万円)をRPFから受け取ったとの事実が明らかになっている。これ以外にも、インタビュー対象者の紹介、車での送迎などでRPFが便宜を図ったとされる。

ツチとフツという民族対立はそもそも、植民地時代にまで遡る。ルワンダの旧宗主国であるベルギーは、間接統治の要員としてツチを徴用。多数派のフツを支配させた。こういった負の歴史が民族問題を複雑にさせ、ルワンダの大虐殺につながったといえなくもない。

講演の最後に米川氏は「難民問題を具体的に議論する前に、難民に対する本質的な理解をしていくべきだ」と訴えた。