あと5年でマラリア・結核はゼロにできるか? 「グローバルヘルス技術振興基金」が治療薬の製品化に200億円調達

GHITの官民パートナーが東京に集まり、今後5年の戦略を練った。競合する製薬会社のトップが一堂に会し、一緒に長期コミットしつづける活動は稀だ

途上国でまん延する感染症の治療薬の開発をめざす「グローバルヘルス技術振興基金(GHIT)」は6月1日、2022年度までの5年間で、マラリアや結核、HIVなどの感染症を治す薬を製品化するために200億円以上の資金を得たと発表した。この資金を拠出するのは日本政府、製薬会社などの民間企業、グローバルヘルス(世界の人々の健康に影響を及ぼす課題解決のために、グローバルな協力・連携が必要な分野)の国際財団だ。

GHITは2013年の設立から2017年までに、創薬や臨床試験に100億円を拠出してきた。HIVやマラリアといった途上国に多い感染症への新薬開発で現在、61件のプロジェクトを支援する。うち6件が南米やアフリカでの臨床試験に進んでいる。

ペルーでは、武田薬品工業と抗マラリア薬の研究開発を手がける非営利研究開発機関「Medicines for Malaria Venture」がマラリア治療薬を臨床試験する。

■オールジャパンはダメ?

新薬の開発は通常、研究開発から臨床試験まで10年以上かかる。だがGHITのプロジェクトはたった5年で臨床試験をスタートさせる。これは医薬品開発の世界では異例ともいえるスピードだ。

このスピードが実現できたのには、GHITのユニークな運営スキームがある。GHITは当初、日本の革新的な創薬技術をグローバルヘルスの発展に生かそうと、日系の製薬会社を中心に設立された。しかし今では外資系製薬会社や国内外の研究機関も参画している。

「オールジャパンではなく、“オールグローバル”で新薬の開発を進める。そうすることで今まで各社・各機関に分散していた研究開発のリソースを集中でき、開発のスピードもアップできる」(GHITの黒川清会長、塩野義製薬の手代木功社長)

徹底した成果主義ベースのプロジェクト管理も、開発スピードを後押しする。「政府開発援助(ODA)や官民連携パートナーシップ(PPP)では、援助や助成の側面が強く、プロジェクトの成果をあまり追い求めない。GHITはあくまで投資の考え。短期で確実に感染症の制圧を進める」(黒川氏)

グローバルヘルスの分野で最大のドナー(援助)団体であるビル&メリンダ・ゲイツ財団(米国)やウェルカムトラスト(英国)も、グローバルヘルスの最新の知見や人材を提供するなど、国際社会もGHITに大きな期待を寄せる。

■もうけよりも「命」を!

ただ、薬ができたからといって、患者に届かなければ命は救えない。「医薬品ビジネスモデルに特例を作ることも必要だ」と、GHITのBTスリングスビー最高経営責任者(CEO)やエーザイの内藤晴夫CEOらは口をそろえる。

医薬品の特許は通常20年だ。その期間は、薬を開発した企業が独占的に製造・販売する。医薬品の開発コストを回収するため製薬会社は、高い価格で売る。その結果、感染症に苦しむ途上国の貧困層の手元に薬は届かないというのが現状だ。GHITのプロジェクトで開発した医薬品には、その感染症がまん延する途上国の政府が購入する場合、無利益・無損失ポリシーのもと、原価プラス14%の価格に設定すると決めている。

今後は、世界保健機関(WHO)や米国食品医薬品局(FDA)といった医薬品販売承認機関に、審査期間の短縮を働きかけていく。

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