日本で暮らすインドネシア人は2016年時点で約4万2000人。2012年から約1万7000人も増えた。2017年5月末には東京・目黒に「マスジッド(モスク)・インドネシア」も誕生。イスラム教徒のインドネシア人にとって住みやすい環境は整いつつある。だが政教分離の原則から日本の国立大学には礼拝所がないなど、不便さはまだ残っているようだ。
■東京駅や高島屋にイスラム礼拝所!
総務省統計局によると、在日インドネシア人の数は、2012年の約2万5000人から2016年には約4万2000人へと4年間で1.7倍になった。とりわけ留学生は約2900人から約5600人にほぼ倍増した。東京・六本木にある国立大・政策研究大学院大学(GRIPS)で学び、また在日インドネシア留学生協会の会長も務めるパンドゥ・ウタマ・マンガラさんは「奨学金制度が増えてきたから、日本で学ぶインドネシア人留学生も増えた」と理由を話す。
留学生をはじめとする在日インドネシア人が増えるにつれて、とりわけ東京ではインドネシア人にとって住みやすい環境が整いつつある。代表的な例のひとつが、イスラム教徒が食べられるもの「ハラールフード」だ。
東京工業大学に留学中で、マスジッド・インドネシアの建設実行委員長も務めたフィルマンさんは「2008年に日本に来たとき、ハラール(イスラムの教えで「許される」の意)認証の調味料や飲食店がほとんどなくて苦労した」と振り返る。NPO法人日本ハラール協会によると、日本国内のハラール認証取得企業は27社。ヒガシマル醤油や井村屋シーズニングなどがある。
イスラム教徒向けの礼拝所も増えてきた。東京駅は6月5日、イスラム教徒が利用できる祈祷室を構内に作った。フィルマンさんは「実は高島屋にも礼拝所がある。だからといって、そこで頻繁に買い物をするわけではないけれど、礼拝所があること自体が安心につながる」と嬉しそうだ。
目黒区にある東京インドネシア人学校の敷地内には5月26日、「マスジッド・インドネシア」が正式にオープンした。6月25日の「ハリ・ラヤ・イドゥル・フィトゥリ(ラマダン明け祭日)」には雨にもかかわらず、約4000人のインドネシア人のイスラム教徒がマスジッド・インドネシアに礼拝のために集まった。人が入りきらず、隣の東京インドネシア人学校の校舎も使われたほどだ。
■国立大の校舎の屋上でお祈り
ただフィルマンさんは言う。
「私が通う東工大をはじめ国立大学には礼拝所がない。不便さを感じる。慶応大や立教大など、礼拝所を設置した私立大学もある。でも国立大学は『政教分離』の原則から、特定の宗教に肩入れできない。教室や、校舎の屋上を『仮の礼拝所』として使っている」
礼拝所が足りないこと以外にも住みにくさはある。来日2年目のパンドゥさんは「日本に住む際の一番のハードルは言葉」と、母国語のインドネシア語で語る。「(留学先である)GRIPSでは基本英語を使う。困ったときは区役所か、GRIPSのキャンパスに助けを求めている」。今では流暢な日本語を話す東工大大学院に通うルクマンさんも「日本語は世界一難しい」と習得にかなり苦労した。
■短期の派遣社員になる人も!?
在日インドネシア人の中にはもちろん、仕事をする人もいる。その数は増えているという。
そのきっかけとなったのが、日本に入りやすくなったことだ。日本政府は2014年12月から、駐インドネシア日本大使館でICパスポートの登録をしたインドネシア人に限って、向こう3年間またはパスポートの有効期間が切れるまでのどちらか短い方の期間、日本に15日間の滞在ならばビザなしで何度も認めるようになったからだ。
「昔は正社員になるために日本にやって来るインドネシア人がほとんどだった。でも今は、短期の仕事で派遣社員になるインドネシア人も少なくない」(フィルマンさん)
インドネシアの人口は約2億5000万人で世界4位。しかも人口増加率は、日本のマイナス約0.2%に対し、年間1.2%と増える傾向だ。ただ現状は、在日インドネシア人は約4万2000人で、中国(約69万5000人)や韓国(約45万3000人)、フィリピン(約24万3000人)など、他のアジア諸国の日本在住者よりも少ない。