東京・葛飾にある日本唯一のエチオピアコーヒー専門店、エチオピアンコーヒーハウスは定期的に、エチオピアの伝統儀式「コーヒーセレモニー」を開く。エチオピア人で店のオーナーであるダウィット・ギルマさんは「コーヒーセレモニーは、日本の茶道よりもカジュアルに参加できる。だけど、もてなす側は、準備に時間がかかるし、力仕事もある」と語る。エチオピアではいまも、都会から田舎まで多くの家庭でコーヒーセレモニーは毎日行われているという。
■作法は母から娘へ受け継ぐ
この店でコーヒーセレモニーを担当するのは、エチオピア人女性の宇都宮ブリファニさんだ。「コーヒーセレモニーの作法は伝統的に母から娘に受け継がれる。私も母から教わった。8歳ぐらいからセレモニーの手伝いを始め、14~15歳で独り立ちし、みんなの前で一通りの作法を披露する」と話す。
エチオピアンコーヒーハウスで先日開かれたコーヒーセレモニーに集まったのは5人の日本人。セレモニーの時間は約2時間だ。
ブリファニさんはまず、乳香、カップやソーサーを置くコーヒーテーブル、コンロ、ポットなどを準備。コーヒーテーブルの前に置いた乳香を焚き、うちわでさっと仰ぎ、まったり甘い空間を演出した。参加者はコーヒーテーブルの周りに座る。
参加者が全員座り終えると、ブリファニさんは、コーヒーの生豆を水で洗い、水に浸し、フライパンで豆の表面に油が出るまでじっくり炒め出した。豆の表面に油が現れたころ、豆のかおりが室内に漂う。乳香の甘いにおいと混ざり合ったエキゾチックな瞬間に参加者はうっとり。「コーヒーセレモニーは、かおりを味わえるのが最大の魅力」(ギルマさん)だ。
この後は、炒った豆をすり鉢に入れゴリゴリ潰していく。じっくり炒ってあっても潰すのはなかなか大変。この力作業は男性が手伝う場合もある。すり潰す間に、ポットで湯を沸騰させ、すり潰したコーヒーの粉を入れ、10分ほどかけてゆっくり煮立てる。
ポットの中で粉が沈殿するのを待って、ブリファニさんは、コーヒーテーブルに並べたカップにコーヒーを注いでいく。最初の一杯は茶道のように、参加者の中で最も偉い人か、特におもてなしをしたい人に入れるのがコーヒーセレモニーの流儀だ。
参加者全員が一杯目のコーヒーを飲み終えると、ブリファニさんは、素早くカップを回収する。ポットに再び水を足し、二番煎じのコーヒーを作る。湯を沸かしている間に、使ったカップを洗う。この作業を三番煎じまで繰り返す。
■塩やバター入りのコーヒーも!
参加者は、二番煎じ、三番煎じと繰り返すごとにコーヒーの味が薄まるので、塩やバター、またはバニラのような風味をもつ香草「ディナダム」などを加えて飲む。毎回違うアレンジでコーヒーの味を楽しめるのが特徴。ギルマさんのお薦めは、二番煎じに、ディナダムを入れること。
お茶うけならぬ「コーヒーうけ」として出されるのは、ローストしたナッツ、ポップコーン、テフ粉で作った菓子パンやクッキーだ。テフは、エチオピアを中心に栽培されるイネ科の穀物。グルテンフリーで、またミネラルも多く含まれている。
千葉県松戸市から夫婦で参加した女性は「茶道と違って、日常的に気軽に楽しめるコーヒーセレモニーが根付いているのは素晴らしい。生豆からコーヒーを作ってくれ、お菓子も一緒に楽しめて、こんなコーヒータイムを毎日持てるなんて楽しそう」と話した。