国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパンのルワンダ駐在員、望月亮一郎氏は8月22日、ルワンダ東部での農業支援プロジェクトの中間報告会で、流通に着目した農家の収入アップ例を披露した。一般的な農業支援では、灌漑設備を作ったり、新品種・肥料・農薬を入れたり、機械化を進めたりするなど、生産量のアップを目指すケースが多い。だがこの農業プロジェクトでは、生産だけでなく、流通・販売まで視野に入れて、市場関係者から聞き取り調査したところ、「地元の仲買人の存在が農家にとって問題であることが分かった」(望月氏)という。
■1.4キロ入るマスを使って騙す
今までの流通の仕組みでは、バナナや豆、トウモロコシなどの農作物を畑から地域の公設市場に運び、約80キロメートル離れた首都キガリから来た大規模仲買人が公設市場から買い付け、キガリの市場や小売店に販売していた。畑から地域の公設市場までは距離があるため、農民が歩いて農作物を運ぶのは難しい。自転車をもつ村人が、地元の仲買人として、農民から農作物を買って、公設市場まで運んでいた。
問題だったのは、地元の仲買人が農民を騙すことだった。仲買人は農民から農作物を買う際に、不正確な秤やマスを使って重量をごまかして儲けていた。ある仲買人が豆1キログラムを買う際に使っていたマスを望月氏がチェックすると、1.4キログラムの豆が入ったという。
仲買人のごまかしを解決するため、望月氏らはまず、畑の近くに集荷所を設置。農民が自分で集荷所まで農作物を運べるようにした。また地元の仲買人を組織化し、仲買人グループが集荷所で農民から農作物を買い取れるようにした。さらに仲買人グループには正確な秤を提供し、重量をごまさかないようにした。
これにより、最初に集荷所を設置した地域では、設置の前日の2017年3月8日には、地元の仲介人による豆の買取価格が1キログラム当たり285フラン(約37円)だったが、3月9日には同じ作物の集荷所での買取価格が同410フラン(約52円)となり、1日で44%もアップした。また、3月からの4カ月で、合計100トン以上の農作物が集荷所で取引され、地域全体で1万5000ドル(約165万円)以上の収入増となった。
仲買人グループは、自分たちでトラックを借りて、地域の公設市場を通さず、直接キガリの市場まで運ぶことにより、儲けを確保する。集荷所で扱う農作物の重量は公設市場の数%程度であるため、公設市場とも共存できる。
■みんなに認められるビジネスをしたかった
ワールド・ビジョン・ジャパンの農業支援プロジェクトが成功した要因は、問題だからといって地元の仲買人を排除するのではなく、巻き込んだことも大きい。「仲買人の多くは、農民を騙して儲けていることを良くないと思っていたし、税金を納めていないなど法的にグレーな部分があるのも知っていた。彼らはみんなに認められるビジネスをしたいと思っていた」と望月氏は言う。ある地域の仲買人グループは、自分たちのグループ名を「もう農家の人たちを騙さない」という意味のルワンダ語に決めた。
仲買人グループが地域のコミュニティに受け入れられるにつれて、最初は儲けが減るからとグループに入らなかった仲買人の中にも、グループに入りたいという人が増えてきた。税金を払い、きちんとしたビジネスをすることで、仲買人の自尊心も向上した。仲買人の一人は、望月氏に「以前は測り方でごまかして農民から安く買い取って儲けていたが、それが良くないと分かっていた。今は我々は自分たちの仕事に自信を持っている」と語ったという。
ワールド・ビジョン・ジャパンは、ルワンダ東部のキラムルジ、ルカラ地域で小規模農家と生産者グループ(農業組合)を対象とした、農作物の販売を支援するプロジェクトを進行中だ。国際協力機構(JICA)の草の根技術協力の一環で、期間は2015年10月から3年間。今後は他のコミュニティにも集荷場方式を広げていく。
ルワンダの1人当たり国内総生産(GDP)は、1994年から2014年の20年で5.6倍に増えた(年間平均成長率8%)。しかし2013~14年のデータによれば、国民の39%が1日65セント(約70円)以下で生活する貧困層だ。ルワンダ政府は国民の70%以上を占める農業従事者に対して、自給自足の農業から、加工を含む商業的農業への変革を推奨している。