学校あきらめ家計支える子どもたち、ヤンゴン貧困地域の児童労働

荷物運び屋の少年たち6人。医者や大工などみなそれぞれ夢を持つ

10分歩いただけで頭がくらくらするような暑さに全身が包まれる。容赦なく照り付ける日差しの下、あちこちで子どもがペットボトルの飲料水を売り歩く。ヤンゴンの貧困地区ダラの埠頭近くの大通りでの光景だ。「僕は頭が良くない」と、中学校2年生にあたる6年生で学校を中退したダンネウェイヒンくん(11)はやめた理由をつぶやく。

毎日朝から夜まで水を売る。現在両親と兄の4人で暮らしており、家計を支えているのは父とダンくんだ。1日の収入は二人合わせて5000チャット(約400円)で、1日数千チャットのダンくんの稼ぎが占める割合は大きい。ダンくんの父は、息子が中退した原因を「家庭の経済状況だ」と認めている。

ダラ地区はヤンゴンの中心からヤンゴン川を渡った対岸にある。船着き場に到着した瞬間フェリーに向かって少年たちが一目散に走ってくる。彼らは乗客の荷物運びを手伝い、チップをもらうことで収入を得ている。筆者が話を聞いたこの仕事に従事する12歳から16歳の少年6人の全員が学校に通っていなかった。

チョイワインくん(16)は船着き場で働いて2年目だ。彼は6年生のときに退学した。「稼いだお金が少しでも家計の足しになれば」と学校をやめ働くことを決めたという。「もし学校に通い続けていたとしたら、きっと今住んでいる家すらなかったと思う」とチョイくんは振り返る。

この6人の少年に学校をやめた理由を聞くと、全員が「お金がないから」と答えた。荷物運びの仕事の1日の平均収入は5000チャットほどだという。もしこの子どもたちが学校へ行けば、その分家族の収入が減ってしまう。「他の職場より稼ぎが良いし、年齢が近い仲間と一緒に働けるからこの仕事は楽しい」と子どもたちは口をそろえる。その一方で、「行けることならば学校に行きたい」とも話す。

小学3年のダジンちゃん(8)は学校に通いながら水売りの仕事をする。「家族の支えになりたい」とダジンちゃん自ら、水売りの仕事をすることを選んだ。兄と姉はそれぞれ8年生と9年生のときに学校を中退している。父は病気を患っており高い治療費がかかる。子どもたちは一家の大黒柱である母親の負担を少しでも軽くしたいと考える。「病気の人をたくさん見てきたからお医者さんになりたい」。ジンちゃんは放課後に水売りとして働き、3000チャットから4000チャットを稼いだ後、深夜12時近くまで勉強に励む。

ミャンマーでは、14歳以下の子どもを雇用した場合、経営者は最高1億チャット(約800万円)の罰金や最長6か月の懲役が課せられる。さらに14歳から16歳の子どもを1日に4時間以上働かせることは2016年店舗および商業施設法に違反する。

しかし、児童労働に関する法律を知る人は少ないという。子どもたちと同じ職場で働く先輩格の運び屋の1人は、児童労働を禁じる法律について「知らない」と首を振る。「法律があると知っても、子どもたちが働くことを禁止できない」と考えている。子どもらは、厳しい経済状況の中、家族と生きていくために働くことを選ぶ。法律だけでは解決できない貧困という厳しい現実が、ダラ地区の子どもたちには突き付けられている。

水売りの少年。厳しい暑さの中1日中ペットボトルを売り歩く

水売りの少年。厳しい暑さの中1日中ペットボトルを売り歩く