海に面し、国内にはいくつもの大河や湖が存在するミャンマーでは、古くから伝統的な手法で漁業が営まれてきた。しかし現在、ミャンマーの漁業は変化の時を迎えつつある。先進的な技術を取り入れて養殖を強化し、従来よりも水深の深い海域でも漁業を営めるようにすることがミャンマーの目下の課題となっている。
■先進的な技術が欲しい!
ミャンマーの伝統的な漁法の一つは巻き網漁法だ。大型の網を円形に広げて、魚を群れごと包み込むようにして獲る。また、ミャンマー東部のシャン州に位置するインレー湖では独特な漁法が維持されている。この地域では釣鐘状の網を使う伏せ網漁が行われており、網を仕掛けた釣鐘状の枠を湖に沈め、湖底をかき回した時に浮かぶ魚を漁獲する。しかし、それだけでは、安定的な供給や、生産性の向上には繋がらない。
「ミャンマーには海がある、資源もある。けれどもそれを十分に生かすための技術がない。」そう語るのはミャンマー漁業連盟で10年近く事務局長を務めるウィン・チャインさんだ。同事務局長はミャンマーの漁業の課題について「まず先進的な技術がないことが問題だ。海や川や湖などで魚を捕るにしても養殖を行うにしても先進的な技術が必要になる」。深い海域にいる大きな魚を捕獲する技術や、消費地まで新鮮なまま運ぶコールドチェーン、安定供給につながる養殖の技術等だ。
ミャンマーの気候は温暖であることや、他のアジア諸国と比較して国土面積が広いことは漁業を営むうえで有利に働くはずだという。「この利点を十分に生かせるかどうかも、漁業技術の進歩にかかっている」とウィン・チャインさんは力説する。
■養殖で食糧確保!所得もアップ!
そんなミャンマーで現在注目され始めているのは、魚の養殖だ。ミャンマーでは淡水魚や海水魚、エビなどの養殖が行われ、養殖された魚は国内市場向けに出荷されるほか、一部は輸出に充てられる。
ミャンマー政府は、養殖業の活性化を通した水産物の安定的生産を重要政策に掲げている。天候に左右されずに安定供給し、品質を一定に保つことで国際市場に打って出る戦略だ。これにより、漁業従事者の所得アップを目指す。
■日本とミャンマーの共同事業がスタート!
ミャンマー政府の関心も高い養殖業であるが、技術や環境の面で課題もある。ミャンマー沿岸部では、過剰な森林開発が原因で海に濁流が流れ込み、赤潮が発生している懸念があるのだ。
この状況を打破するために、ミャンマー漁業関係者は、赤潮などを乗り越えてきた日本の養殖技術に熱い視線を送っている。2016年から広島大学などとミャンマーの政府や大学による共同事業が始めた。その内容はミャンマーから日本に学生を派遣し、養殖技術をはじめとして日本の漁業について学ばせようというものだ。日本語を習得した後、広島大学で1年間に渡ってカキの養殖をはじめとする日本の漁業について学ぶ。初年度は12人の学生が日本に派遣され、漁業研修に汗を流す日々を送っている。
日本のカキ養殖業者は、度重なる赤潮被害の経験から、赤潮を予測して乗り越える技術を確立してきた。こうした日本の技術を切り札として養殖を定着させ、漁業従事者の生活向上につなげたいという。「日本の技術を学び、漁業を通じてミャンマーを豊かにしたい」と話すウィン・チャインさんの目標は大きい。