カトリック教徒が人口の83%を占めるフィリピンで、20代の若者の改宗が目立つ。マニラ発祥の新興宗教であるCCF(Christ’s Commission Fellowship)は、SNSやイベントを通して若者を魅了している。しかし改宗した後にカトリックに“再改宗”する若者も少なくない。家族の絆を第一に考えるフィリピン社会では、家族と違う宗派に属することは、大切なミサの時間を共有できないことを意味する。
■カトリックはツマラナイ?
フィリピン・ネグロス島南部のバコン町。ここには1849年に建てられたカトリックのサンアグスティン教会がある。教会の前には、子どもが遊んでいるのを見守る、十字架のネックレスをかけた親の姿も。カトリックが生活の一部として深く根付いているのだ。ただ近年はカトリックからプロテスタントへの改宗が増えているという。
イグレシア・ニ・クリスト、アドベンティスト、エホバの証人、メソジスト、バプティスト――。バコン町の周りにはカトリック教会以外にも様々なプロテスタントの教会が点在する。バコンのそばにあるサンボアンギータ町に住む女性教師は最近の改宗事情について「親の束縛から解放された20代の若者の改宗が特に目立つ」と明かす。
若者のカトリック離れの要因の一つは、毎週日曜日に教会で行われるミサに魅力を感じられないことだ。一方的な説教や代り映えのない音楽を原因にカトリックを離れていく。女性教師は、大学卒業後にプロテスタントに改宗した姉を持つ。「姉は聖書を勉強するのが好きではなかった。退屈な聖書の音読が嫌で、大学を卒業してからはミサに行かなくなった」と語る。
若者のカトリック教徒の多くは、信者同士の親密さとエンターテインメント性が強いプロテスタントに魅了されている。その代表格が、マニラを本拠地に1984年から活動しているCCFだ。CCFはSNSを活用したり、毎週3回集会を開いたりして、信者でない若者が気軽に接触するチャンスを増やしている。YouTubeアカウントには「キリスト教に自分のアイデンティティを見つけよう」、「神への愛を育てよう」といったタイトルの動画が多くアップロードされている。サンボアンギータ町出身の20代の女性は「私の彼氏はCCFに改宗した。親身になって話を聞いてくれたり、定期的にイベントに招待してくれたり、CCFはカトリックよりも魅力的だと言っている」と語る。
■結局戻ってくる先は家族とカトリック
しかし一方で、プロテスタントに改宗した若者の中にはカトリックに再び改宗するケースが少なくない。サンアグスティン教会(カトリック)のジュリウス・ヘルラ神父は「陽気な音楽や神への愛という言葉に魅了されて、若者は他の宗派に目移りしがちだ。だが楽しさだけでは信仰は続かない。結局は幼い頃から心の中に培われている(カトリックへの)信仰心に再帰する」と力説する。
カトリックに戻ってくる最も大きな要因は「家族との絆」の強さだ。前述の20代女性は言う。「カトリックとして生まれ、カトリックとして死ぬ。これがフィリピンの家族の理想像なの」