フィリピン・ネグロス島ドゥマゲティ最大のモスク「イマム・ホメイニ・イスラミック・センター」で、イマム(イスラム指導者)のサディク・アンボロト氏(28)に独占インタビューをした。アンボロト氏は「イスラム国(ISIS)の台頭で世界ではムスリムへの風当たりが強まっている。しかしドゥマゲティのムスリムはいまも平和に暮らしているし、これからも心配はないだろう」と淡々と話す。キリスト教徒が人口の93%を占めるフィリピン。ドゥマゲティに住むムスリムの割合はたった0.8%だ。
■監視されるムスリム
――ミンダナオ島北部のマラウイでは、イスラム過激派のマウテグループとフィリピン国軍が戦闘を繰り広げている。約200キロメートル離れたドゥマゲティでは、ムスリムとキリスト教徒のあいだに対立はないのか。
「ない。このモスクが1981年にドゥマゲティ市タクロボ地区にできてから、36年にわたって平和に暮らしてきた。ドゥマゲティのマジョリティであるキリスト教徒らは、市のキャッチフレーズ “the City of Gentle People”(寛容な人々の街) にあるように、親切で寛大だ。モスクを中心とするムスリムコミュニティには20世帯が住んでいるが、子どもたちはみんな公立の学校へ通っている」
――ドゥマゲティには何人のムスリムがいるのか。
「1000人以上いる。市内には、大きいモスクが2つと小さいモスクが1つある。イマム・ホメイニ・イスラミック・センターが最も古くて最大だ。もうひとつの大きいモスクはバガカイ地区にあり、サウジアラビアがサポートしている。セルバンテス地区にある小さいモスクは、地元のムスリムたちが資金を集めて建てた」
――このモスクをどう運営しているのか。
「私の祖父らがここに土地を買った。イラン政府からの寄付もあった。モスクの敷地内に今は図書館しかないが、マドラサ(イスラム学校)を図書館の上に増築中だ。イランのサポートで2~3年に一度、モスクの壁を塗り替える。ムスリムの旅行者が祈るために訪れる。旅行者からのサダーカ(寄付)は、モスクの運営などにあてる」
――モスク周辺のムスリムコミュニティの人たちはどうやって生計を立てているのか。
「私は時計のビジネスをしている。このムスリムコミュニティには、Tシャツや金銀、石を売って生活している人がいる。みんな小さなビジネスだが、生活はできている」
――行政とムスリムコミュニティの関係はどうか。
「警察が1年に1度このモスクに来て、ムスリムの数と名前を調査し記録する。世界情勢やマラウイ周辺での戦闘を受け、ドゥマゲティ市がテロを恐れているからだ。しかし私たちは監視されることを気にしていない」
■マウテはムスリムではない
――ミンダナオでは何が起きているのか。
「(1990年代からテロを繰り返してきた)アブサヤフが、ISISが支援する過激派集団のマウテに合流し、2017年5月からマラウイでフィリピン国軍と激しい抗争を続けている。ドゥテルテ大統領は戒厳令を出した(今も戒厳令が敷かれている)」
――ISISや過激派集団は、ムスリムといえるのか。
「いえない。彼らは真のイスラムのイメージを破壊している。イスラムは平和のためにある。彼らは平和のために存在していない。イスラムのあいさつ“アッサラームアレイクム”は、“平安があなたにありますように”という意味だ。
私たちは、ISISのことを、Israeli Secret Intelligence Service(イスラエル諜報特務庁)と皮肉っている。なぜなら、ムスリムの敵であるはずのイスラエルでテロ行為をしていないからだ。イスラエルからお金をもらっているのではないかと、ムスリムはうわさしている(イスラエル諜報特務庁は、イスラエルに実際に存在する政府機関)」
――東南アジアで最大の宗教はイスラムだが、マイノリティの国でムスリムが置かれている状況についてどう思うか。
「私が今心配しているのは、ミャンマー政府が迫害しているロヒンギャ(ミャンマー西部のラカイン州に暮らすベンガル系のムスリム)だ。人道危機にさらされているのに、トルコとイラン以外の国は沈黙している。アメリカと同盟関係にあるために、アメリカを恐れているのだ(アントニオ・グテレス国連事務総長はロヒンギャ問題を懸念し、ミャンマー政府を非難。現在、国際社会も声を上げ始めている)」
――イマムとして、平和についてどう考えるか。
「すべての宗教は、平和のためにある。社会に悪い影響を与える宗教は、宗教とはいえない。日本人には、インターネットなどの情報を鵜呑みにせず、きちんと見極めてほしい」