寺をいくつも巡り、お布施などを通じて最も功徳を高く積むことができるカンボジアのお盆「プチュンバン」。2016年は9月6日~21日の15日間だった。カンボジアン人はこの期間、どれぐらいのお布施をするのか、アンコールワットのおひざ元の街シェムリアップで調べたところ、最高額は700ドル(約7万7000円)だった。驚くのは、キリスト教徒のカンボジア人もプチュンバンを祝っていたことだ。
シェムリアップに住む仏教徒の専業主婦トーンさん(30)は、タイで建設会社を営む夫のトーアさん(29)、4歳の娘、6カ月の息子の4人家族だ。プチュンバンの時期には毎年、家族全員で寺を巡るという。
2017年は自宅近くのポランカ寺院にお参りに来た。お布施の金額は、僧侶の生活を支援する目的で200ドル(約2万2000円)、修行僧が泊まる寮の建設費用として500ドル(約5万5000円)と合計700ドル(約7万7000円)。高額の寄付をしたことについてトーンさんは「夫の仕事で大きなビルを工事する依頼が入ったため、収入が多かったから。もちろん今までで最高額」と話す。前の年のプチュンバンの寄付額は約100ドル(約1万1000円)だったという。
ポランカ寺院では現在、遠くから来る貧しい修行僧が寝泊まりできる寮を建てるため、建設費の寄付を呼びかけている。こうした事情もあって、トーンさんは多額の寄付をした。ただトーンさんの寄付額はここカンボジアでは例外的に高い。
庶民の相場は50ドル(約5100円)ぐらい。シェムリアップ市中心部の3つ星ホテル「アンコールパールホテル」の受付で働くリッチーさん(24)は「多くのカンボジア人は、自分の生活の余裕と気持ちにあわせて寄付の額を決める。昨年(2016年)は50ドル(約5500円)を寄付した。でもお金を毎年寄付するわけではない」と話す。
リッチーさんによると、いくら寄付するかは問題ではない。寄付したいという自分の気持ちとその時の生活の余裕が大切だという。リッチーさんは毎年プチュンバンがくると、僧侶への食べ物を用意し、欠かさず寺に行く。
ユニークなのは、カンボジアでは少数派のキリスト教徒も、プチュンバンには寺をお参りする人がいることだ。28歳の時に仏教から改宗したウィーリヤさん(40)は「私はプロテスタント。だけど毎年プチュンバンになると寺を巡る」と言う。
ウィーリヤさんは元々、本人を含めて家族全員が仏教徒だった。だが家の近くにある教会にも通っていた。その後、シェムリアップのホテルに就職し、結婚をした直後にキリスト教に改宗した。しかし「改宗後もプチュンバンには寺に行き、家族に対して日ごろの感謝の念を込めて祈る。私にとっては(幼いころからの)大事な習慣だから」と語る。