タイ人の環境活動家、バンペン・チャイヤラック氏は都内で講演し、東北タイ(イサーン)で計画中の鉱山開発への反対運動に、昔話を使うことで地域住民が一致団結しつつある例を紹介した。バンペン氏は「イサーンの人みんなが知っている昔話を使うと、地域の住民に環境の大切さを納得してもらいやすい」と伝統的な物語の効果を強調した。
炭酸カリウム採掘への反対運動に、バンペン氏が協力するイサーン・ウドンタニ県の住民グループが使う昔話は「パーデーンとナーンアイの物語(Phadaeng and Nang Ai)」。イサーンの人なら誰もが知っていて、イサーン版「ロミオとジュリエット」ともいえる悲恋ストーリーだ。あらすじはこうだ。
王女ナーンアイと王女に命じられた民はある日、白いリスに姿を変えた龍の王子を殺し、食べてしまう。このため龍の王の怒りを買い、王女ナーンアイは恋人パーデーンとの仲を引き裂かれる。その後、都とともに陥没した地面に飲まれ、水に沈んでしまったという。地面が陥没したところは、ウドンタニ県に実存するノーンハーン湖になったと伝えられる。余談だが、イサーンやラオスでは野生のリスは好んで食べられるという。
イサーンの人たちにとって白いリスは塩の象徴。大地の陥没は、岩塩が溶けた空洞で大規模な地盤沈下が起きることを表すと考えられてきた。イサーンでは実際、地表に出た岩塩が雨で溶けて地盤沈下するという現象がたびたび起きている。
反対運動の集会では、子どもたちが「パーデーンとナーンアイの物語」の劇を演じたり、民謡歌手が物語を歌にして歌ったりしてきた。昔話を伝えることで住民グループは資源の取りすぎへの警鐘を鳴らす。炭酸カリウム採掘事業は計画段階だが、反対する住民も多いため、まだ開発は進んでいない。
バンペン氏はこのほか、日本の国際協力NGOメコン・ウォッチと協力して、伝統的な物語を子どもの環境教育に使う「人びとの物語」プロジェクトもイサーンで手がけてきた。このプロジェクトは、地域の小学校の子どもたちとバンペン氏が一緒に村に行って、高齢者から物語を聞き、それを絵本にするもの。作った絵本は子ども向けの環境教育に使う。バンペン氏は「物語には地域の自然を利用するうえでの哲学が含まれている」と物語から学ぶことの重要性を語る。