野菜の栽培は紛争解決に役立つ!? 日本紛争予防センターが南スーダンで農業プロジェクト

JCCP南スーダンでの野菜栽培を通じた民族融和事業(民族が異なる少年の協働) © Japan Center for Conflict Prevention

認定NPO法人日本紛争予防センター(JCCP)の瀬谷ルミ子理事長は10月6日、都内で開かれたイベント「南スーダン人NGOスタッフ 現地の今と未来を語る」(JCCP主催)に登壇し、対立する民族間の信頼を取り戻すには農作業が有効だと強調した。南スーダンでは民族対立が深刻だが、「平和構築のための研修をしても、集まってくるのは元々平和的な人たちだけ。他の民族と話したくない人たちは来ない。平和的でない人たちも興味をもつものは何かと考えた。それが野菜栽培だった」と言う。

JCCPは、南スーダンの首都ジュバ近郊の国内避難民キャンプで、避難民とホストコミュニティの住民に対して、葉物野菜やピーナツ、トマトなどを栽培し、乾燥加工する方法を学べる研修を行っている。野菜を育て、加工するには嫌でも他の民族の人たちと協力しなければならない。瀬谷氏は「100%分かりあうとか、相手のことを好きになるのは難しい人もいる。でも協力したほうがお互いにメリットがあることが分かる。次第に共通の話題が増えていく。争いを避けるようになることを最低限のゴールにしている」と説明する。野菜の栽培・加工のスキルも身につき、紛争解決にも役立つ一石二鳥の研修だ。

瀬谷氏によると、南スーダンでは親から他民族の悪口を聞いて育つ子もいる。このため、会ったこともない他の民族に反感をもつ人は多い。また少ない食料を奪いあうなど、子どものころから争うことが当たり前になっている場合もある。避難民キャンプの中でも、支援物資をめぐって民族間で争いが起こり、どこを窓口にしたらよいか分からなくなって支援をあきらめた団体もあるという。

支援団体が避難民と良い関係を築くには繊細な配慮が必要だ。イベントに登壇したJCCP南スーダン事務所のルバイ=ティングワ・シニアプロジェクトオフィサー(南スーダン人)は「最初は避難民キャンプの人たちと話そうとしても反発された。だがJCCPのスタッフが、相手の名前だけを聞いて民族名を聞かず、相手の文化を尊重した態度をとると、徐々に話を聞いてもらえるようになった」と自身の体験を話す。研修を受けた避難民は、他の民族について「一緒に作業してみたら、意外と約束を守る人たちだと分かった」と感想を語ったという。

今後の活動についてルバイ氏は「南スーダンは資源も豊富で、農作物も育ちやすい豊かな国。それが裏目に出て権力闘争が起きてしまった。これからは紛争を解決する活動に政治家を巻き込んでいきたい」と意欲的だ。瀬谷氏も「南スーダンで誰もが求める農業を紛争解決のために用いるアプローチは、平和を表に出していないので紛争当事者にも受け入れられやすい」と手応えを語る。南スーダン政府も実際に、JCCPが進めるプロジェクトに興味をもち、車と資金を提供してくれたという。

南スーダンは2011年7月に独立した。ところが2013年と2016年に大規模な戦闘が起きて内戦状態となった。人口約1200万人の3分の1に当たる約390万人が家を失った。390万人のうち200万人がウガンダなど国外へ避難し、190万人が国内避難民となっている。国内避難民の80%は女性と子どもだ。

2017年5月には国連平和維持活動(PKO)に参加していた日本の自衛隊が撤退したが、現地の紛争は激化している。日本政府から資金援助を受けるNGOの日本人スタッフに対しては南スーダンへの渡航が制限されているため、JCCPも現在はルバイ氏のような現地スタッフや外国人スタッフが頑張っている状態だ。瀬谷氏は「一般の人たちからの寄付金を活用し、日本人も現地で活動できるようにしたい」と展望を描く。

「南スーダン人NGOスタッフ 現地の今と未来を語る」イベントで対談する瀬谷ルミ子氏(左)とルバイ・ティングワ氏(右)

「南スーダン人NGOスタッフ 現地の今と未来を語る」イベントで対談する瀬谷ルミ子氏(左)とルバイ・ティングワ氏