米NPO法人アークファイナンスのプロジェクトマネジャー・藤田周子(ちかこ)氏が11月7日、インドにおけるBOP(低所得者)市場のマーケティングをテーマに都内で講演した。藤田氏らは、商品販売と融資を組み合わせる手法により、太陽電池式の小型ライト「ソーラー・ランタン」の普及に力を注ぐ。その経験をもとに「低所得者層市場攻略のカギは小口融資と口コミだ」と語った。
■ソーラー・ランタンを売る
講演会はJICA地球ひろばの主催で、テーマは「途上国ビジネスの最難関“マーケティング”~顧客に選ばれるために大切なこと~」。
発展途上国の貧困問題を解決する手段は、金銭・物品を無償供与する援助ばかりではない。藤田氏が所属するアークファイナンスは、小口融資をする現地のマイクロファイナンス機関への支援を通して、低所得者が貧困問題の解決につながる商品を入手しやすくすることを目指している。
インドの農村部では電気が届いていないため、多くの家庭が日没後に、灯油(ケロシン)を燃やすランプを使う。燃料費が継続的にかかるうえ、室内に充満する煙を吸い込むことになり気管支炎などの健康被害につながりやすい。また、ランプを転倒させると火災の原因にもなる。
藤田氏らが普及を押し進めているソーラー・ランタンは、太陽光発電装置と蓄電池、LEDライトが一体化した商品だ。晴天の昼間に充電しておくことで4~8時間発光する。普及すれば夜間の経済活動が活性化するほか、子どもの勉強時間、読書の時間を伸ばすことにつながる。健康被害や火事の心配もない。価格は日本円で3000~4000円程度だ。
アークファイナンスは、現地のマイクロファイナンス機関を支援して、低所得者層が小口融資を受けられ、ソーラー・ランタンを購入できるようにすることに取り組む。現在は米国国際開発庁(USAID、米国のODA実施機関)の資金援助を受けて実施している。
■返済額は毎週180円!
このプロジェクトでは、藤田氏らが誘致した現地のマイクロファナンス機関の担当者(ローンオフィサー)が商品販売と融資の両方を担う。ローンオフィサーは、村の女性たち10~15人が1~2週間に1回集まるグループミーティングを訪問。女性たちに商品サンプルを見せて、欲しいものがあれば選んで融資を申請してもらう。審査に通ると、お金を借りて製品を購入できる。
ソーラー・ランタンを購入するときの融資額(製品価格+利子+手数料)は1800~2500ルピー(3300~4600円)だ。代金は購入者それぞれが、グループミーティングごとに、マイクロファイナンス機関に分割で返済する。たとえば融資額が2500ルピーであれば、毎週100ルピー(約180円)前後を約6カ月で返済する。
マイクロファイナンス機関が融資する商品は、「クリーン・エネルギーの推進につながる」「複雑な配線や設置作業が不要」などの基準を満たすものをアークファイナンスがリスト化した中から、マイクロファイナンス機関が現地の事情にあわせて選択している。
必要のない商品の購入を押し付けることになってはいけないので、村の女性たち自身で、必要か否か、購入するかしないかを判断できることを重視する。グループミーティングでは、ソーラーシステムのメリットや修理方法などを説明する。「モラルが保たれるよう、マイクロファイナンス機関のインセンティブにも気を使っている」(藤田氏)
■商品の紹介役はローンオフィサー
ソーラー・ランタンは社会問題を解決する力をもつ商品だ。だが最初からそのメリットや存在が消費者に十分に理解されているわけではない。特に低所得者に購入してもらうには困難も多い。成功へのカギのひとつは小口融資。もうひとつは口コミだ。「ラストマイルを攻略するマーケティングツールとして口コミに勝るものはない」と藤田氏は言う。
口コミの起点も、ローンオフィサーが担う。集金担当であると同時に、新商品の紹介役として、女性たちからの大きな信頼を得ているからだ。「○○さんが薦めるなら安心して買える」。多くの女性たちがそう話す。また、ローンオフィサーは何年もグループミーティングに通って顔なじみになっており、所属するマイクロファイナンス機関のオフィスがどこにあるかもわかっている。「何かトラブルがあっても安心」と思われていることが多い。
■「屈辱から解放された」
ローンオフィサーも、信頼を裏切らない商品選びのために努力する。女性たちに商品を購入した動機や使ってみた感想を聞くなど、次の商品選びに向けてマーケティング調査を怠らない。
ソーラー・ランタンを購入した女性に、購入して良かったことを聞くと、意外な答えが返ってくるという。「ソーラー・ランタンを買う前は簡易灯油ランプを使っていた。配給分の灯油を使ってしまうと、追加の灯油を買うお金がなく、近所の家を回って余ったものを分けてもらっていた。ソーラー・ランタンを使うようになり、その屈辱から解放されたのが一番うれしい」。煙が少ないため、「家の白い壁が汚れにくくなった」ことを喜んでいる女性も多いとのことだ。
支援する側は社会的インパクトや地球環境などを重要視しがちだが、消費者が商品を購入する動機は「便利になる」とか「快適になる」といったことの方が大きい。「支援者目線だけでは、実際に現地の人たちが欲しいもの、ニーズとの間にはしばしばギャップが生じる。低所得者層であっても、普通の消費者だということを忘れてはいけない」(藤田氏)
消費者と接するのはローンオフィサーだ。支援する側が、ローンオフィサーからしっかり話を聞いて、ニーズの認識を共有することがプロジェクト成功のカギになる。「この考えは、日本企業が低所得者層市場を攻略するうえでもきっと生きるのではないか」と藤田氏は話す。