「病気になったら、コカのお茶を1日2杯は飲むわ」。こう話すのは、南米コロンビアの北部に暮らす先住民エンベラ・チャミ族のソレイニさん(17歳)だ。夢はハイバナ(シャーマン)になること。麻薬として生成されたコカインではなく、薬としてのコカの使い方を広めたいという。
エンベラ・チャミ族の間でコカは、頭痛、下痢、発熱、めまい、体の痛みなどを治すために使われる。体調が悪いときに1日2回、お湯にコカの葉と砂糖を入れて飲む。病院に行くのはどうしても治らないときのみだ。コカはまた、葉っぱをかむことで、暗い夜道を一人で歩くときは寂しさを忘れることができ、また長い時間歩くときにも元気が出る。
コロンビアの法律はコカの木を栽培することを禁じている。ただソレイニさんが暮らすのは、コロンビア・アンティオキア県にある先住民保護区(レスグアルド)のひとつ「カルマタ・ルア」だ。レスグアルドとはコロンビア政府から自治権を保証された地域を指し、独自のルールを決めることが可能だ。カルマタ・ルアでは、コカの木をエンベラ・チャミ族の伝統文化として保護している。
カルマタ・ルアには2階建ての学校がある。麻薬の授業は必修だ。「授業では、コカインのことを習うけれど、コカの葉っぱのことは教えないわ。コカインのせいでコカまで悪いものとみんな思ってしまう。本当はコカはいい薬になるのにね」。自身も麻薬の授業に出席するソレイニさんはこう嘆く。
麻薬の授業は各週で行われる。ソレイニさんが参加するクラスは25人ほどだが、コカに興味がある生徒はあまりいないという。「みんながコカの伝統的な使い方を知ろうとしないことが悔しい」と語る。
エンベラ・チャミ族にとって、すべての植物は魂が宿る存在だ。コカも同じ。このためコカの葉を摘む前には必ず、「葉っぱを薬として使わせてください」とコカの木に話しかける。「もし怠れば、コカのお茶を飲んでも病気を治すことはできないわ」(ソレイニさん)
コロンビアはかつてコカイン取引の世界最大の拠点だった。これを問題視したパストラナ政権は1999年に米国と協定を結び、麻薬掃討作戦を掲げた。「プラン・コロンビア」だ。ヘリコプターでコカの畑に農薬を散布し、多くのコカの木を枯らした。ソレイニさんは、人間がコカの木の魂のことを考えずに、大金を稼ぐために育てることを悲しいという。
ソレイニさんは言う。「人間と自然が共存できるような関係を築きたい。まずは、ハイバナになってコカの知識をもっと増やすつもりよ。そして、村だけじゃなくて、麻薬の授業を受けるすべての人に、コカの本来の使い方を知ってほしいわ」。コカの悪用を防げれば、コカの木がむやみに伐採されることはなくなるというのが彼女の考えだ。