「エスコポラミナ」と呼ばれる“世界一強力な麻薬” がコロンビアにある。原料はナス科のチョウセンアサガオ(日本では「キチガイナスビ」と言う人も)。チョウセンアサガオの木は、コロンビア第2の都市メデジンからバスで4時間のところにある先住民保護区「カルマタ・ルア」に生えている。だがこの植物が麻薬になることを知っているのはここではシャーマン(ハイバナ)だけ。ハイバナのフロレンティーノ・タマニス・タスコンさん(45歳)は「私たちエンベラ・チャミ族にとってチョウセンアサガオは伝統的な薬。でも麻薬にもなることが知られると、エスコポラミナは世界中に広まりかねない」と懸念する。
エスコポラミナは「ボラチェロ(酔っ払い)」という別名をもつ。その名の通り、エスコポラミナの粉を液体と一緒に飲んだり、粉を吸ったりするだけで、人は自己コントロールを失い、他人の言うことをよく聞くようになるという。大量に摂取すると2~3日昏睡状態になり、最悪の場合は死に至るというから恐ろしい。
葉っぱに硫酸などの化学薬品を混ぜて加工するコカインと比べ、エスコポラミナの作り方は簡単だ。タスコンさんによれば、チョウセンアサガオの根を乾かして粉末にするだけでエスコポラミナはできあがる。世界最強の麻薬は子どもでも作れるが、チョウセンアサガオは医薬品の用途もあるためコロンビアでは栽培が禁じられていない。
エスコポラミナは、実は一部の人の間で1970年代から女性をレイプする目的で使われ始めた。コロンビアのニュースサイト「ノティシアス・カラコル」によると、コロンビアでは1日に平均5人がエスコポラミナによるレイプ被害にあっているという。
犯罪被害はレイプだけにとどまらない。エスコポラミナの最もメジャーな使用目的は窃盗だ。「隣の町で一度、コーヒー農家の夫婦がエスコポラミナの被害にあった。来客が夫婦のサンコチョ(コロンビアの伝統的なスープ)にエスコポラミナを入れ、それを食べた夫婦は丸2日間眠ったまま。その間に犯人は家財をすべて盗んでいった」(タスコンさん)
しかし、犯罪に悪用される麻薬も、エンベラ・チャミ族にとっては薬になる。煎ったチョウセンアサガオの葉っぱを水に漬け、抽出した液を頭にかける。すると疲労回復に効くという。「カルマタ・ルアではチョウセンアサガオは薬としてしか使わない。薬として扱うことが許されるのはハイバナだけだ」とタスコンさん。カルマタ・ルアの外では、チョウセンアサガオの成分を含んだ薬があり、鎮痛・鎮静薬として用いられる。