ベナンのパイナップル農家にとって、ラマダン(断食月)は稼ぎを増やせる数少ないチャンスのひとつだ。その理由は、ベナンのムスリム(イスラム教徒)は断食明けの最初の食事(イフタール)としてフルーツを食べる習慣があること。ただ同国最大の都市コトヌーの近郊にあるグロ・グレボジ村のパイナップル農家、ボノ・パコメさん(32)は「パイナップルの栽培に必要な肥料を、近くの知り合いからもらっている。その条件として、育てたパイナップルを格安で知り合いへ出荷しないといけない」と貧困から抜け出せない理由を語る。
「パイナップルを作っても作っても、お金は貯まらない」。こう嘆くパコメさんのパイナップル畑の面積は4ヘクタール。うち3ヘクタールは、父から受け継いだ土地。残りの1ヘクタールは知り合いから借りている。スタッフ15人を雇う。
一見すると経営は順調に見える。だがパコメさんには知られざる悩みがある。「実は肥料を買うお金がない。だから、知り合いのパイナップル農家から肥料をもらっている。ただその代わりに、その農家へパイナップルを1個200セーファーフラン(CFA、約40円)で売るというのが条件だ。この値段は、通常の1個250CFA(約50円)よりも安い」
知り合いの農家に融通してもらう肥料は金額にして656万CFA(約131万円)にのぼる。ベナンの場合、パイナップルは植え付けから収穫まで約1年2カ月かかるため、肥料代は高額になる。「高いけれど、使わないとパイナップルは育たない」とパコメさんは言う。
パコメさんにとっての理想は、お金をためて肥料を自分で買い、知り合いの農家との関係を終わらせることだ。「市場価格よりも低い値段での取引に納得いかない。だが肥料をもらっているため、相手の要望に従うしかない。スタッフも、知り合いの農家のやり方に疑問をもっている」。
パコメさんによれば、パイナップルの売り上げは4ヘクタール分で1840万CFA(約368万円)。これに肥料代、人件費を引くと、儲けは764万CFA(約153万円)程度となる。貯金をもたないパコメさんにとって、肥料代を捻出することは困難だ。結局、知り合いの農家に肥料を融通してもらい、パイナップルを格安で取引をするといった悪循環に陥る。
「知り合いの農家への借りをなくしたい。そうすれば、パイナップルの値段が2倍の500CFA(約100円)に跳ね上がるラマダンに市場へ出荷できる。肥料を買うお金も貯められる」とパコメさんは語る。
悪循環に陥る現状を変えようとパコメさんはマイクロファイナンス機関(MFI)へ相談に行ったこともある。だが、MFIと良好な関係を築けていないこと、MFIの仕組みの理解が十分でないことが、彼の望みを阻む。
「今年こそ、どうにかして肥料代を賄いたい。でもその見通しがつかない」。パコメさんは苦い顔でこう語った。