カンボジア発ファッションブランド「Sui-Joh」の額田竜司さん、「カンボジア人の温かさも世界に発信したい!」

カンボジア・シェムリアップの繁華街パブストリート近くのSui-Joh。中央の男性は額田竜司さん。妻はカンボジア人だ

外国人観光客で賑わうカンボジア・シェムリアップ中心部のパブストリートとキングスロード。「Handmade in Cambodia」を掲げて、バッグ、シャツ、ポーチなどのファッショングッズを扱う店「Sui-Joh」(すいじょう)がある。シェムリアップにある2店舗を総括するのは額田竜司さん(29)だ。「収支は正直とんとん。それでも、カンボジア人に経営や接客のノウハウを仕事で学んでもらうことで、彼らの夢の実現を手伝える」と前向きだ。額田さんは、日本の接客のように形式ばらず、客を「ひと」として接するカンボジア人の温かさも同時に世界に発信したいと話す。

人生を180度変えてくれた

カンボジアの首都プノンペンで浅野佑介さんが立ち上げたファッションブランドSui-Joh。アンコールワットを擁する観光の街シェムリアップでは2店舗を展開する。Sui-Johの商品のターゲットは、欧米や日本などから来た観光客だ。Sui-Johと大きく書かれたピンクのトートバッグは20ドル(約2100円)。コインケースなら4~6ドル(420~630円)だ。

Sui-Johの商品の魅力は、シャツやトートバッグ、財布を含めてほぼすべての生地に、カンボジアの伝統的な手ぬぐい「クロマー」を使っていることだ。クロマーは、ストール、タオル、抱っこひもなどに用いる万能布。「基本的には地味なデザイン。だからSui-Johでは虹のようにカラフルなクロマーを選んでいる」。額田さんはSui-Joh独自のクロマーへのこだわりをこう語る。

額田さんが初めてSui-Joh代表の浅野さんと出会ったのは約4年前。カンボジア人が自分たちの仕立て技術を生かして、カンボジアブランドを世界に発信する同社の理念に深く共感した彼は、2年前に合流。シェムリアップでは初めてとなるSui-Johの店舗を立ち上げた。

カンボジアは、額田さんにとって人生初の海外旅行の行き先。当時20歳(大学2年生)だった。カンボジア人の「心の温かさ」や「ありのまま生きる姿」に感銘を受ける。「人生を180度変えてくれたこの国、この街(シェムリアップ)で何かをしたいと強く思うようになった。(大学卒業してすぐ)7年前に移住してきた」

シェムリアップでは、テントのような店舗で家賃月3万円の敷地で始め、すぐに欧米人観光客の多い区画のキングスロードに2店舗目を開いた。その後、ナイトマーケットの店を、パブストリート付近に移転させた。「ナイトマーケットは雑貨を売る場所。Sui-Johが目指すブランド推しができなくなると思ったからだ」と額田さんは説明する。

面接で重視するのは「将来の夢」

Sui-Johシェムリアップの従業員7人は全員カンボジア人。1人がフルタイムで、6人はパートタイマーだ。英語でコミュケーションをとれるのはもちろん、日本語を話す店員もいる。シェムリアップの月給は180~200ドル(約1万9000~2万1000円)といわれるが、Sui-Johの場合は数百ドル(数万円)と平均より高い。

スタッフの採用面接で額田さんが重視するのは、語学などのスキルではなく、その人の将来の夢だ。Sui-Johの店員の夢はフォトグラファーやファッションデザイナー、レストランの経営者などさまざま。「それぞれの夢を実現させるためのスキルを、仕事を通じて学んでほしい」と額田さんは期待する。売り方の工夫のひとつとして、店員は商品を顧客にただ勧める、値下げするのではなく、どんなストーリーでその商品がつくられたかなどの説明を欠かさないようにする。そのほうがSui-Johというブランドをアピールできるから、と額田さんは語る。

人間くささも武器にしたい!

額田さんは今後、Sui-Johというブランドの認知度を世界中で高めたいという。「そのために、テレビやガイドブック、ユーチューブ、SNSを積極的に活用している」と語る。その成果として、女性をターゲットにしている「地球の歩き方 aruco」などに紹介された。

また、ブランド名と同時に、カンボジア人の温かみや人間くさいところも発信したいという。「日本人の接客は時にはロボットのように硬い。だがカンボジア人は、お客様をひとりの人間としてあつかう。売り手と買い手の関係を超えた『ひと』と『ひと』のつながりをつくれる魅力がカンボジア人にある」(額田さん)