アンコール遺跡を案内するカンボジア人高校生の夢、「ITで国の経済に貢献したい」

家の庭を背に笑顔を向けるクリーくん。家は昔ながらの高床式だ(カンボジア・シェムリアップ)

カンボジア・シェムリアップにあるアンコール遺跡群を案内する高校生がいる。クロウト・コンクリー(クリー)くん(17歳)もそのひとりだ。クリーくんは幼いころから、家のそばにあるバイヨン遺跡(アンコールワット遺跡群の中にある)に通い、絵はがきを売っていた。中学生になると、アンコール遺跡群を観光客に紹介して回ることでお金を稼ぎ、それを学費や生活費に充てるようになった。クリーくんの将来の夢は、得意な英語力を生かして米国の大学へ進学し、情報技術(IT)を勉強すること。「ITでカンボジア経済を発展させたい」と目を輝かせる。

クリーくんが暮らすのは、バイヨン遺跡から車で20分ほど離れたノコール・クタウ村だ。子どものころから両親に連れられて、バイヨン遺跡に足を運んでいた。9歳からは母親と一緒に絵はがきを売った。多くの観光客が来るバイヨン遺跡にはさまざまな言葉が飛び交う。絵はがきを売りながら、ガイドが観光客を相手に英語で説明するのを聞いて、英語と遺跡の歴史の両方を学んだ。

中学に上がると、地元のインターナショナルスクール「ニューヨーク・インターナショナルスクール」に1年間だけ通った。さらに、NGOが運営する英語教室でも英会話を磨いた。インターナショナルスクールも、英語教室も、学費はすべて、海外のNGOが払ってくれたという。

バイヨン遺跡で外国人を案内し始めたのもこのころからだ。稼いだお金で、通学などに使うバイク、学校の教科書、ノートを買った。クリーくんは現在、カンボジア人が通う普通の高校で学ぶ。海外に一度も行ったことがないにもかかわらず、英語力は、日本の一般的な大学生より格段に高い。

クリーくんは7人家族だ。2人の姉と2人の妹がいる。両親は共働きだが、5人の子どもの生活費、教育費をすべてまかなうのは難しい。だが両親は家族のために働くことをクリーくんに強制するのではなく、英語を学ぶ、という自分の自由な選択を許し、応援してくれることに感謝している。「いまの両親の息子でいられて良かった」とクリーくんは喜ぶ。

「奨学金がもらえたら、アメリカの大学へ留学したい」。クリーくんが学びたいのはITだ。遺跡を案内するなかで、インターネットを使って観光客はツアーに申し込むのを知ったからだ。「ITは世界のすべての物事をつなぐ。大学でITを学んだ後は、海外で数年経験を積み、カンボジアに戻ってきたい。ITでカンボジアの経済発展に貢献したい」